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ねえ聞いて。わたし、あなたに話したいことがたくさんある。
今朝寝坊したらママに叱られてムカついた。登校途中に、塀の上で猫がぎゃあぎゃあ鳴いていて、ケンカかなと思ったら、発情したオス猫がメスにアプローチしていた。高校へと続く並木道の桜は大分散ってしまったけれど、アスファルトにピンクの花びらが大量に散らばる様が、まるで何かのデザインのよう。その辺りで美穂に出会った。美穂ちゃんは変顔をして、わたしを笑わせにくる……
毎日毎日色々なことがあって、楽しくてつらくて、どれだけ喋っても喋り足りない。そんな言葉を一番に聞いて欲しいのは、あなた。押野修吾くん。そして、いつか聞いて欲しい。わたしがあなたを好きだってことも。
「羽美、おはよ!」
葵に背中を叩かれて、羽美は我に返る。
「なになに、ぼうーっとして……ははん、さては、またポエムタイムに入っていたな」
「ち、ちがうもん!」
「その否定の仕方、かーわいい。正直すぎるよね、羽美は」
「そんなに出ちゃってる?」
「もう見え見えだよ。もともと羽美は腹にためておけないと言うか、何でもオープンに喋っちゃうでしょ。隠し事なんて無理だから」
そんなに何でも言っているかな。親友の葵にも十分の一位しか喋ってないよ。
その時、押野修吾が登校してきて席にカバンを置いた。男子生徒からの挨拶や軽口に応じる彼に、羽美は思わず目を奪われた。
修吾はカバンから一枚の紙を取り出して、授業の始まる前の教壇にのぼった。
「みんな、ちょっと聞いて」
雑談していた皆が、一斉に振り返った。
「クラスの親睦会の件だけど、カラオケか、遊園地か、希望を取りたいんで、掲示板にこの紙を貼っておくから、希望者は名前を書いておいてください。お願いします」
軽く頭を下げると、修吾は紙を持ち教室の後ろ側へと歩き出した。
「さすがだねえ、押野くん」と葵が言った。
「昨日の親睦会の話を、もう具体的にまとめてくれているし、クラス委員の仕事もばっちりだし、イケメンだし、ま、カッコいいよね。羽美がキュンとするのも無理ないか」
「葵ちゃん、はっきり言わないで」
確かに、葵ちゃんの言うように、押野くんは先生からも皆からも信頼されてて、本当にカッコいいけれど、わたしが好きになったのは、それだけじゃないの。
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