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「真面目に探れ。中川ともあろうものが丸腰だなんて有り得ねえ。気合い入れて拳銃を探せ」
「はい。あっしはいつだって気合い入れてます」
織田の指先が、俺の恥ずかしい部分をまさぐり続けている。
これから海に沈められようっていうのに、最後の最後に俺の身体に触れているのが、よりによって織田だなんて。
今までまるで気づかなかったし、そんな噂も聞いたことが無かったが、きっと織田にはそっちの気がある。もちろん俺には、そっち系の趣味はない。
なんてこった――泣けてきた。
しょっぱい涙の向こうには、フロントガラスに映る星屑たちが、切なく瞬いていた。
「織田、拳銃あったのか」
「あるとは思うんですが」
「あると思うんなら、早く取り上げろ」
「前向きに探ってみます」
俺は今、きっと乙女座の女のような顔になっている。
こんな形で人生を終える俺。
きっと俺の魂は、泣きながら永遠に岸壁の辺りをさ迷い続けることになるのだろう。
俺の全身を――文字通り本当に全身を――探り終えた織田が、手のひらを引っ込めて後ろを振り向いた。
「兄貴、拳銃ありませんでした」
「何? そんな馬鹿な。確かか?」
「はい。ありませんでした」
「ぬう。そんなにしつこく探っても無いんなら、本当に丸腰なんだろうな。まあいい。織田、ご苦労だった」
「ご馳走さまです」
「あ?」
「何でもありません」
「しかし、組で一番の拳銃の使い手の中川が、まさか丸腰だとはな……」
後部座席の高野は驚いているが、それ以上に納得が行かないのはこの俺自身だ。
何しろ、確かに俺は懐に拳銃を忍ばせているのだ。しかもそれは、ほんのちょっと身体を探られたら確実に見つけられてしまうような、実にありきたりな場所に。
とにかくだ。織田があんなに俺の身体を探ったのに、俺の拳銃を見つけ出せなかったという有り得ない結果は、まさに奇跡としか言いようが無かった。
首を傾げながらアクセルを踏んでいる内に、いつの間にか俺達は目的地へと辿り着いていた。
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