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時は流れた。
あの出来事から季節は何度か変わり、今再び、八月を迎えていた。
今、俺は織田が運転するクルマの助手席に乗っている。後部座席には、親分の三条がいる。
「おい、織田」
親分が、低い声で運転席を睨んでいる。
後ろから、拳銃を構える音がした。
「おまえ最近、わしを腰抜けだと抜かしとるそうじゃの」
「何の話です」
織田は前を見たまま、身に覚えがないといった顔をしている。
「第一埠頭の岸壁にゆけ。おかしな真似はするなよ。もしもおかしな真似をしたら、わしは撃つのを躊躇わんぞ」
「親分、誤解です」
「黙らっしゃい。おい、中川。織田の身体を探るのだ」
親分の命令は絶対だ。俺は、運転中の織田の身体に手のひらを這わせた。
だが、織田は命の恩人だ。
俺は今、あるひとつのことを思っていた。
去年の織田と同じ作戦で行こう。
何しろ俺には、織田に対して返しきれない恩義がある。今こそ、それを返すときだ。
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