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学校と家のちょうど中間くらいにあるスーパーマーケットは、昔からよく買い物をしている店だ。店内に入ると心地よい冷気と軽快な音楽が迎えてくれる。
ここで食料を調達してから朔哉の家に行くパターンが多く、俺の家で遊ぶことはほとんどない。自宅よりも朔哉の部屋のほうが居心地がいいと思うのは気のせいではなく、朔哉がそうしてくれているから。
この幼なじみは俺を甘やかす。自分が使うために買った物でも、俺が気に入ったと言えば、その時から『総一朗専用』になる。見返りなんて求められない、ただ与えられるだけの優しさを欲してしまう自分が嫌になるときもあるけれど。
「総一朗はなににする?」
一応聞いてはくれるが、買い物かごの中にはすでにいくつかの飲み物やお菓子が入っていた。甘いのとしょっぱいのバランスよく。俺は優柔不断で、ついなんでもいいと答えてしまいがちだから。
「あ、あとアイス食べたい」
「いいねぇ」
自分の意見を伝えると朔哉が嬉しそうな顔をしてくれることに、気づいたのはわりと最近のことだった。
「やばい迷う。新商品多すぎだよ」
「……俺は」「チョコミント」
二つの声が重なる。
「総一朗は最近それしか食べないね」
アイスのケースを端から順番に眺めながら、朔哉が、そういえばさ、と切り出す。
「さっき、聞いてた?」
「なにを?」
「教室で。俺が女子と話してるの」
遠野くんが好きです。
私を彼女にしてもらえませんか。
ごめん。他に好きな人がいるんだ。
「なんだ気づいてたのか。悪い、聞くつもりはなかったんだけど」
「あ、本当に総一朗だったんだ。なんとなく人の気配感じたから」
「なんだよ。カマかけたのか?」
「だって総一朗、さっきからなんか変なんだもん」
朔哉はこちらを見ないまま、アイスのケースからレモン味のシャーベットを取り出した。いつも柑橘ばかり、人のこと言えないだろ。それから俺がいつも買うチョコミントのアイスを二つ、買い物かごに入れてくれる。また次に食べるときのためのストック分。
「なにが変なんだよ。お前が女子に告られるのなんてしょっちゅうだろ」
「でも直接聞いたことはないよね」
確かに後で話に聞くことはあっても、告白の現場に遭遇したことなんてなかった。だからなのだろうか。自分でもよくわからない感情が胸に渦巻いているのは。
「よーし、溶ける前に早く帰るよ」
「朔哉のほうが変だし」
「うん。そうかもね」
そう言ってやっと目を合わせたと思ったら顔は笑っていたのに、なにか違和感を覚えた。そういうものを朔哉も感じ取っていたのかもしれない。
いつも隣にいる人にしかわからない、なにかを。
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