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俺は瓶を整頓し、彼女の方へ歩み寄った。陳列された小瓶をその時にチラチラと窺えば、色とりどりの何かがそれぞれの瓶に詰まっていた。
ラベルには、『ぬくもり』、『さくら』、『しおかぜ』、『じめじめ』、『ゆき』など、様々なことが書かれていた。
「なぁ、アンタは何でこんな店を開いてるんだ?しかも、こんな人気のない場所で」
カウンターの前に置かれた丸椅子に座りながら俺は訊ねた。
「そうねぇ、ただの趣味よ。当時の空気が好きだったから、忘れないように保管しているだけ。人気のない場所で経営しているのは、単に私が静かな場所が好みなだけ」
カウンターに置かれた水色の小瓶を弄りながら彼女が答える。その瓶のラベルにも、ひんやりと書かれていた。
「それ、開けないのか?この店の中暑いだろ」
「確かに暑いけれど、耐えられないほどじゃないわ。たまに開けて楽しむくらいがちょうどいいの。夏の暑さを緩和させるひんやりを生み出すのって、かなりコストがかかるのよ?」
「それは知ってる。真夏の電気代はやばかった」
「そうよねぇ。あの頃は今みたいに電気代が安くなかったし、クーラーの性能も悪かったから」
「だよな。かといって扇風機だけだと全く涼しくならないしな」
「ねー。今は便利になったものよねぇ」
まるで年寄りの会話だ。心の中でふと笑みを零しながら、少女が弄る小瓶を見つめる。
先程見た『ひんやり』の小瓶と何も変わらないはずなのに、それは妙に俺の目を惹く。中で揺らめいているのは、青空のような爽やかな水色。揺らめく度にチリチリと放たれる青い光輝は、どことなく感傷的な気分を連れてくるような気がした。
「この小瓶、開けてあげようか?」
少女が俺の目を覗き込んでふわりと笑う。
「……いいのか?」
「えぇ。貴方は久方ぶりのお客さんだし、何より私と同じアンドロイドのお客だなんて珍しいもの。だから、特別」
そう言って彼女は、小瓶の蓋をキュッと捻った。徐に蓋が外されると、中で揺れていた涼しげな液体が半透明の空気になってそっと店内に溢れだした。
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