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人生初の義理チョコ
「何ですか。これは。」
「チョコよ。今日が何の日か、知ってるでしょ。」
「知ってますけど、それなら要りません。」
「えっ~、ありえないんだけど。」
学年で1、2位を争う美少女の私、確かに本命チョコじゃないけど、義理チョコでもいいからって、クラスに男子が廊下に行列を作るのに、この男の子は一体何なの。信じられない。心の中で、そう思った。
「ゴメンなさい。うちは、仏教徒ですから、伴天連、異教徒の祭りには参加できません。それに、チョコは悪魔との契約の証、僕は地獄に堕ちたくないし、ゾンビになりたくないから、無理です。」
「何、それ。超ウケるんですけど。」
腹筋崩壊ばかりに笑い転げる季久美さんを見て、僕はメッチャ不安になった。この年頃の女の子は、箸が転げても可笑しいらしいが、度を過ぎている。
「あのう、僕、何か可笑しいこと言いましたか。」
「もしかして、マジ。君、マジで言ってるの。」
「はい、マジです。御仏に誓って。」
あまりに真剣な表情の僕を見て、季久美さんは唖然となった。
そんな季久美さんに、僕は幼い頃からのバレンタインデーの父親の教え、
ついでに学校の決まり、僕が父子家庭であることも説明した。
「そうか、そうなんだ。普通、義理チョコでももらえない男の子はお母さんか、姉妹が義理チョコをくれるもんだけど、君の場合、無理か。」
「・・・・・・」
「ねえ、ひょっとしてクリスマスも異教徒の祭りとか。」
「よく、知ってますね。クリスマスに、人間に化けたサタンが血染めの服を
来て、やってくる。プレゼントは、悪魔の契約の印。もらうと、苦労すると
教えられました。」
「ふう~、やっぱりね。ちなみに、チキンとかケーキは。」
「その日に、出たことはありません。天津甘栗を食べます。」
「栗ですます・・・・。クリスマスか、寒すぎるよ。可哀想に。」
そう言って、季久美さんは僕を胸に抱きかかえて、頭を優しくナデナデしてくれた。
生まれて初めて女の子、それも綺麗な女の子の黒い艶やかな黒髪の匂い、
ふくよかな胸の感触、体温と体臭を一気に五感で感じ、頭がクラクラした。
でも、その時の季久美さんに、僕は、観音菩薩の慈愛を感じ取ったんだね。
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