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槇田の揺るぎない目の強さに弾かれたみたいに、香奈がさっと目を伏せる。
「そっか、そうなんだね。唯一無二、か」
スゴイね…、と呟いて、香奈は何故か少し寂しそうに微笑んだ。
香奈の夫がもう間もなく到着するとの連絡を受けて、槇田は帰り支度を始めた。
香奈に別れを告げ、病室を出たところで香奈の夫とおぼしき男性と鉢合わせた。
職場からそのまま慌てて飛んできたのだろう。スーツ姿で髪が若干乱れている。香奈よりおそらく何歳か年長の、実直そうな男だった。
声を掛けられ、何度も礼を言われ、強く乞われて連絡先を告げると、槇田は強引に話を切り上げて、足早に病院を後にした。
外はもうすっかり暗くなっていた。時計は午後八時近くを示している。馨と別れてから三時間以上経っていた。
今から帰ります、とだけメッセージを飛ばし、槇田は駅に向かって駆け出した。
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