❀中❀

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「なんか、ちょっとびっくりしちゃった。……訊いてもいい?」  ゆっくり瞬きをしながら、香奈が問う。  元彼が、自分とよく似た男性と一緒に歩いていたら、そのいきさつを知りたくなって当然だろう。  けれど馨とのことは槇田にとって何よりも大切なことであり、神聖なものでもあったから、既に遠い他人となった香奈に多くを語りたくはなかった。  だから槇田は、香奈に伝えておくべきことだけを、シンプルに伝えた。 「同じ下宿に住んでるんです。俺の、大切な人です」  香奈がハッと息を呑むのが判った。 「確かに初めは香奈さんと似てるなと思いました。でも今は、全然そうは思いません。俺にとって、唯一無二のひとなんです」  はっきりと言い切った槇田に、香奈は大きく目を瞠り、しばらく言葉を探していた。 「……男のひと、だよね?」 「はい」 「……、……大学で、知り合ったの?」 「いえ。彼はずっと年上です。あなたと同じ」  その言葉に槇田がこめた意味を正確に汲み取ったらしい香奈は、一瞬苦しげに目を揺らした。  皮肉に聞こえたとしても構わない。ただ馨と槇田の関係は、かつての香奈と槇田との関係とは全く違うのだということを、はっきりと伝えておきたかった。
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