蒔苗、苦悩を吐露する

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「うん、まあ。わかるよ、多分」  アカリはできるだけ蒔苗の気持ちに寄り添おうと試みる。例えば生粋のゲイを自認するアカリが女性相手に欲情してしまうことを想像すれば、比較的そのときの蒔苗に近い気持ちが味わえるはずだ。きっとアカリは天地がひっくり返るようなショックを受ける。 「もちろん動かない明里とやるのはすごくいい。でも、もしここで動いたら、声を出したら、反応があったらと。以前ならそんなこと、考えただけで吐き気がしたはずなのに」  そういえば、アカリの青姦現場を見て嘔吐したときのことを蒔苗は「自分の身に置き換えてみた」のだと言っていた。  ただでさえ思わぬ自身の変化に動揺していたときに、蒔苗はアカリが百合子を妊娠させたのではないかと疑いはじめる。頻繁に電話で話しているのを見て仲が良いとは思っていたが、アカリが中絶について検索をしているのを見てピンときた。その少し前に真夜中呼び出されたのもきっとその話だったのだと。  ゲイのアカリがなぜ百合子とそんな関係になりうるのかについて「死体にしか興奮しないはずの自分が明里に妙な気持ちを抱くことがありうるのだから、ゲイが急に女性に惹かれることもあるだろう」と納得したというのは、ある意味筋の通った考えではある。  そして意外と常識人な部分もあった蒔苗は、アカリと百合子がそういう関係ならば自分は身を引くべきだと考えはじめた。 「そんなもやもやした感情を抱えていたあの日、なんと俺は起きているお前とセックスするところを思い浮かべて、勃起した」  混乱した蒔苗は思わずアカリの首を絞めた。さらに行為を終えた後にも興奮がおさまらず、気持ちを落ち着かせようと自分の手を引っ掻いたりつねったりしていたのだという。  その後大学でアカリと百合子が二人で「子どもが」とか「結婚が」などと言っているのを立ち聞きしてしまい、耐えきれずアカリに日曜の予定のキャンセルを申し出たというわけだ。 「早とちりはどっちだよ」 「まあな」  アカリは手を伸ばし、ベッドの上に置かれた蒔苗の傷だらけの手の甲にそっと自分の掌を重ねた。  恋なんてしないと思っていたアカリ。生きている人間には欲情しなかったはずの蒔苗。なのに今はこんなにも強く互いを求めている。  でも、人生きっと、こういうこともある。 「蒔苗、俺は今すごくやりたいんだけど。ちゃんと意識のある状態で、今までやったことのないようなセックスがしたいんだけど」 「百戦錬磨な明里に、今までやったことのないセックスなんかあるのか?」  あるよ、と囁いてアカリは手を伸ばす。誘いに応えるように蒔苗がゆっくりとアカリに覆いかぶさってくる。顔と顔が近づきキスする寸前で止まり、アカリは囁く声でようやく質問への答えを明かした。 「愛のあるセックス」
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