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「でもまあ、きれいだな、ゆりっぺ」
チャペルでは今まさに、結婚式のハイライト。神父が新郎新婦に誓いの言葉を読み上げるところだ。一面の窓から太陽の光が降り注ぐ中で百合子とマークが向かい合う。
「あなたは、滝百合子を妻として、病めるときも健やかなるときも愛し続けることを誓いますか?」
神父の言葉に被せるようにして、蒔苗がそっとアカリの手を握った。隅の席だから、どうせ誰も気づかない。どきどきしながらアカリがちらりと視線を向けると、蒔苗はアカリの手を握る力をぎゅっと強くした。
百合子とマークは誓いのキスを交わし、指輪を交換し、拍手の中チャペルを出て行く。その後ろ姿を見ながら蒔苗はつぶやいた。
「俺は、きっとかなりお得だぞ?」
「何が?」
「だって、病めるときと健やかなるときはもちろん、死体になったっておまえを熱烈に愛することができる」
心の準備ゼロのところに突然告げられた愛の言葉に、アカリの心臓は驚きのあまり破れそうになる。それに、蒔苗がまさかこんなこと口にするなんて——。
「やめろよ、そういうの。ドキドキして本当に死んじゃいそうになる」
照れ隠しに、返す言葉は素っ気なくなってしまう。でも本当はとても嬉しくて、もし今正面から蒔苗の顔を見たら泣いてしまうかもしれない。アカリは顔をうつ向けた。しかしアカリのそんな気持ちを知ってか知らずか、蒔苗はのんびりした調子で続ける。
「そういえば、生きてる明里もいいけど、死んでるのも捨てがたいな。そうだ、今晩久々に薬飲んであれやらないか?」
「せっかくいい感じだったのに、やっぱりおまえはそういう奴だよ」
滲みかけた涙は一気に引っ込んでしまう。呆れ顔でため息をついては見せるが、しかし実のところアカリだって 内心まんざらでもない。
すでに他の参列者は出て行ってしまい、チャペルに取り残されたのは二人だけ。
これは俺の男。病めるときも健やかなるときも、死んでしまっても熱烈な愛を注いでくれる、俺だけの男。そう思うとたまらなくなる。
「なあ、蒔苗」
名前を呼んで、自分の方を向いた顔をとらえ、アカリは「今夜のお誘い」の承諾がわりに素早くひとつキスをした。
(終)
2017.08.02-08.26
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