真夜中、映写室

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真夜中、映写室

「そういえばアカリくん、これ興味あるんじゃないかな」  ゼミが開始して数週間が経った頃、アカリは倉橋教授から一枚のDVDを渡された。  ラベルの貼られていないディスクを手に首をかしげていると、倉橋は散らかった机の上を探って数枚のコピー用紙を束ねたものを探し出した。  それはどうやら映画のプロモーション資料のようだった。 「これこれ、浅井承平の次の映画だよ。君、好きだって言ってただろ。パンフレットに解説書くよう頼まれてサンプルをもらったんだ。僕は昨日四年生と観たけど、アカリくんも興味があればどうぞ。来週の水曜までに返してくれれば持っていって構わないよ。もちろん内容はまだ秘密でね」 「本当ですか?」  浅井承平は低予算にも関わらず叙情的で美しい映像を作ることで近年評価を上げている若手映画監督だ。  アカリは彼の作品がとても好きで、以前提出した課題レポートの中で言及したことがあるのだが、倉橋はどうやらそれを覚えてくれていたらしい。  貴重な浅井の公開前作品を観ることができるのも嬉しいし、倉橋が自分のレポートの内容を覚えてくれていたのも嬉しい。アカリは礼を言って、DVDを手に教授室を後にした。  午後からは近所のファミレスでアルバイトだった。  一年生の頃から続けている厨房スタッフとしての技量は既にベテランの域に入っている。時間が空けばできるだけ長くシフトに入りたいと伝えてあるので、今日も午後二時から夜十一時まで、短い休憩を挟みながらぶっ続けで働くことになっていた。  仕送りゼロの大学生活は、なかなかのハードモードだ。当初は試行錯誤したものの、今のアカリは平日は二十四時間営業で柔軟に予定の立てられるファミレス、土日は体力的にはきついけれど単価の高い引っ越し屋でアルバイトをしながら、月に数度趣味と実益を兼ねて出会い系で相手を探して多少の小遣いをもらっている。  それでも毎月の生活費の他に半期ごとに授業料を振り込まなければいけない。学校で使う書籍は不当に思えるくらい高いし、長期休みには合宿参加などでまとまった金が必要になることもある。正直「はたらけどはたらけどなほ我が暮らし楽にならざり」を地でいく生活を続けている。
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