接触は落涙の味

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
夏の陽射しがひたすら強い日だった。 一ミリでも動けば喉が渇きそうで、石のようにじっと留まっていたとしても汗腺から汗がじわりと滲み出してくる湿度の伴っていない高温の空気と、ひっきりなしに泣き喚く蝉が暑さにのぼせる頭をぐわんぐわんと揺らす。 こんな暑い日は冷房の効いた室内に籠ってしまうのが定石で、けれどその日はあまり家に居たくなかった。 その為ならば犬のように舌を出してしまいそうな猛暑日の白い世界に飛び出す事も何ら苦には思えず、図書館に行くから、なんて言い訳を武器に家を飛び出した数時間後。 誰もいない公園のベンチで隣り合わせに座るアイツにキスをしたのは自分でも予想外の行動だった。 きっと普段話す事のない俺に、何故かアイツが弱音を吐いてくれたから、だから思わず二度と訪れないだろう僥倖を逃すまいと、暑さで朦朧とする頭が判断してしまったのだ。 揶揄うように触れた唇は冷たくて 惜しみながら離れた吐息は熱くて もう関わる事すら許されないかもしれないアイツを公園に残して逃げ出した俺は、ひんやりと冷たいアイスに凍えた唇が触れた感触すら曖昧にさせてしまったことを、只々残念に思って泣いていた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!