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ゴミ箱の中
「君はもうだめだよ…赤かな。」
ここはとある島国…近未来の風景。
街中にところせましと設置された少し大きめのゴミ箱。
中を覗くも底は見えない。見えるは果てしなく続く暗闇のみ。
住民はみなそのゴミ箱には全く寄り付こうとしない。
このゴミ箱が設置されてからというもの社会犯罪は急激に減少した。
軽微な犯罪こそ厳重に取り締まらないとならない。それこそが諸悪の根源。年齢などは関係ない。人権生命擁護の観点から死刑こそは廃止されたが、死刑と対等な特別な処置がなければ、この世の平和は守られない。
だからこそ、人目の多い場所にこのゴミ箱の設置を考えたのだ。人々は口々に言う…
「国は既に宇宙人によって、狂った方向に向かってしまった…。」と。
「これは決して平和などではない。曲和だ…。」と。
何年前だっただろうか。黒い大きな文明組織が宇宙から飛来してきたのは。彼らには誰も逆らうことが出来なかった。彼らは一瞬にして、武器の類いを粉微塵にしてしまう力を持っていたのだから。彼らは他国の核兵器も全て抹消してしまったらしい。
彼らの中心たる指導者は、我々を説き伏せるかのように…いや、絶対的強制力を植えつけるように、都市中心部を丸ごと消し飛ばしてしまった。都民だけを残してだ…。
私たちにも理解できるように変換させられているだろう言語…彼らが続けた言葉の中にこのような言い回しがあった。
『地上におろすべき人間を間違えたようだ。不必要な人間は地下へとおとす。』
彼らの言う、不必要な人間とはどういった意味なのだろうか…。
その後…「人間であるべき行動規範」たるものが国民全員の絶対的ルールとして強制執行された。
破ったものはどうなるかって?
勿論…ゴミ箱の中に落とされて、分別されてしまいます。
どんな理由であれ、ルールを破ったものは皆、地面に埋め込まれたハイテクノロジー搾取投函機によって最寄りのゴミ箱にポイされます。
こんな世の中に納得するはずがない。誰かが変えるしかない。
そして、いつしか革命団は立ち上がる。
雑味ある行動規範を守りつつ、密かに計画を練っていく革命団。
ゴミ箱に落ちたものは決して地上には戻ってこない。帰ってきたものはいないから。
地上への情報は完全に遮断されている。人間以外の機器類などを投じようものなら、直ぐ様、そのものはポイされるから。
ゴミ箱の底がどうなっているかなど地上人は知る由もない…。
だからこそ、己で確かめるしかない。自分自身を機械に改造したその肉体を試すがために、青年はゴミ箱へ単身乗り込む。革命団、いや人類の情報手段の担い手として。
青年の名前は吾味 分(ごみ わける)。
彼の若い肉体は全身サイボーグ化に成功した。
宇宙人たちの技術を盗み、解析し、同一信号を放流させながら、街中に埋め込まれた搾取投函機の一つとして紛らせることに成功した。
見た目は普通の人間と変わらない。
規範では新たな技術革新は戦犯とされていたが、小さな島国のテクノロジーは宇宙人の許容以上だった。確かに、バレたら一貫の終わりだが宇宙人たちが単一の機械を複数設置して監視するという点が、革命団にとっては幸いであった。
当計画には長い年月を費やした。多くの協力者がさらけ出され、ゴミ箱にポイされたが、革命団の統率された意志は強固な絆で守られていた。
決して諦めない…どんな犠牲を払ってでも成し遂げる。
地上と姿の見えない地下空間…情報共有化システムが正確に作動するのかどうかさえ定かではないが、青年吾味の身体はどんな空間条件であっても、その生命を絶ち切るまでにはいかないような設計を施されている。二重、三重、四重もの環境適応システム。
彼の肉体は決して年を重ねることはない。
10年前…青年吾味の両親はゴミ箱へと揃ってポイされた。理由は分からない…。宇宙規範はとてつもない量の項目が記されている。公共の場での夫婦喧嘩…?でもしたのだろうか。その日は久々に二人で出掛けていたから。
彼は両親の安否確認と不協和音を醸している社会の旋律を修正するために、この革命団へと入団した。他の若者たちは命を失う恐怖からか、20代は彼を除いて誰一人居なかった。
吾味はゴミ箱の底を覗き込む。終着点は永遠の闇。 彼は両親がポイされたゴミ箱から、突入したいと革命団メンバーに事前に話していた。
「いくぞっ!」
意を決した。
脳内に響き渡る
「頑張ってこい!」の声。
ガダダンッ!
搾取投函機の挙動を感じることもなく、吾味は俊敏にジャンプし、丸い枠に綺麗にスッポリと直立姿勢で、ゴミ箱の中に吸い込まれていった。
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