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「…………なっ!?」
久方ぶりに視覚を解放され、ぼんやりとしていた景色が段々にはっきりと鮮明になってくると、そこに広がっていた世界に私は絶句した。
まず目に飛び込んで来たのは、妙に凸凹しているなと思っていた足元の床だ。
そりゃあ平らでないのも当たり前だろう……それは床ではなく、床一面に敷き詰められた、蒼白い肌の色をした全裸の人間だったのだ!
全員…否、全部というべきか? すべてうつ伏せで、男も女も混ざっている……その肌の色や硬い弾力、その冷たい温度からして、とうに生命活動を終えていることは間違いないだろう。
そう……この足裏に伝わる冷たさも弾力も、死後硬直した人間のそれだったのである!
「ま、まさか……」
それとわかると、私の冷やされた脳裏にある嫌な予感が走り抜ける……床がそうであるあらば、同じ冷たさをした椅子だって同質のものだという方程式が成り立つのではあるまいか?
「うっ……!」
その仮説に思わず椅子から跳び上がり、振り返ってしまった私の網膜に、案の定の…否、それをも凌駕する醜猥な物体が映り込む。
それは、全裸の男の脚をクランクに折り曲げ、その形に固めて作った椅子であった。
江戸川乱歩が描いたかの『人間椅子』をも超越する、まさに正真正銘の〝人間椅子〟だ……いや、もう息をしていないし、今や材質は人間でないので、人間椅子と呼べる代物ですらないのか……。
……いや、待て……床や椅子がそうだったということは、私が今、抱いているこの抱き枕はどうなのだ?
「う、うわあぁぁっ…!」
さらなるその嫌な予感に視線を自分の胸元へ落とした私は、手の中にあったそれの正体を今更ながらに認識し、不覚にも無様な叫び声を上げてそいつを乱暴に放り投げた。
その〝抱き枕〟だと偽って手渡された物体は、やはりすっかり冷え切った人間の脚であった。
太腿から足首までがあり、その先は切断され、血が零れないようにするためか両端にビニールがかけられている……。
こんなものをずっと気持ち良さそうに抱いていたなんて、これまでの爽快な〝ひんやり〟とはまるで違う、身の毛もよだつ怖気が鳥肌とともに全身を覆い、冷たくも嫌な汗が背中をつう…と伝い落ちる。
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