Coming of summer

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 午後になっても、太陽はしぶとく空に居座っていた。この六月は特に暑く、梅雨という季節は無いに等しかった。涼をもたらすものは風しかなく、それがカーテンを揺らしながら入ってくるそよ風であれ、部屋の隅で一人奮戦する扇風機であれ、スマホやAIといった昨今の文明機器の発達から考えれば原始的なものだった。風の到来を待ちきれず手うちわで暑さを和らげようなどとする行為は、もはや棍棒で狩猟に出掛ける猿人と変わるところがない。   明上(めいじょう)学園生徒会の定例会議は、この時すでに終盤に差しかかっていたが、始めからここまで結局エンジンが掛かり切らないまま、いくつかの議題を機械的に処理するにとどまっていた。いつもクールな会長も、今日は心なしか気怠そうで、声にも張りが無かった。  これはチャンスだと、平丹羽(ひらにわ)は思った。ここ二三日、彼は企ての成否を案じてドキドキしていたが、その時が近づいた今、霊魂の抜けたような体の無気力さはすっかり消えていた。代りに根拠のない自信が溢れてきて、彼の心を強くした。生温い風はそよとも吹かないが、神風は吹いているように思えた。 「会長、次が最後です」秘書の神辺(かんなべ)優子(ゆうこ)が提案書を差し出した。七森(ななもり)郁実(いくみ)はそれを受け取ると、ざっと目を通し、一つ溜息を吐いて言った。
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