Coming of summer

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「カミングクー‼」女の子が右手を突き出し、はじけるような笑顔で、テレビの真似をする。 「カミングクー! カミングクー!」CMの開けたテレビは、既に夕方のワイドショーに切り替わっているというのに、彼女にとって、それは遠い宇宙で起きた小さな星の爆発と同じくらい、無関係に思えた。 「カミング――あ、お兄ちゃん! おかえりなさい!」言って、彼女は一回り近く歳の離れた兄に駆け寄った。 「今日は学校どうだった? 満菜ちゃん来た?」  制服の少年は身をかがめ、少女の頭に手を置いた。「満菜は来ないよ。悪いな、めぐ」それだけ言って、少年は少女の前から下がった。リビングを出てキッチンを通りがかった時、母に呼び止められた。 「昌悟(しょうご)、なんとかならないの?」 「無茶言わないでくれ。彼女が来る気配はないよ。寧ろ」 「あ、満菜ちゃん!」ドアの向こうから声が聞こえてきた。音から察するに、今度は例のドラマのCMだろう。ほんの少し映った程度だろうが、妹は見逃さなかったらしい。 「寧ろ、さらに忙しくなって、ますます来られなくなるかもね」
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