Coming of summer

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 絶頂期を迎えつつある夏の日、数人の女子生徒が中庭の木陰に腰を下ろし、カミングクーを片手に談笑している。ベンチに座る少年は、その光景をどこか遠巻きに――それは実際の距離以上のものだろう――そして寂しげに眺めている。終業式を翌日に控え、夏休み明けのカミングクーの去就は未定となっていた。木陰の女子生徒の姿も、教室でカミングクーを飲む生徒たちの姿も、もう見納めかもしれない。そんなことを考えながら、彼自身もカミングクーを手に取った。 「平丹羽先輩」誰かが声を掛けてきた。顔を上げてみると、微かに見覚えのある生徒がそこにいた。 「君は、確か……」 「こんにちは。詮索好きの一年生こと、水子(みこ)汐里(しおり)です。この間は名乗り損ねてましたね?」  平丹羽は溜息を吐いた。「何の用だ? あの二年生のお遣いか?」 「いいえ、わたしの個人的な興味です」  平丹羽は、黙って彼女を見返した。 「こればっかりはきっと、本人に聞くのが一番手っ取り早いと思うから」汐里は平丹羽の隣に座った。「先輩が堀木満菜に入れ込んでる理由。ほんとは何かあるんですよね? 平丹羽はあんなキャラじゃなかったって、みんな言ってますよ」 「君には関係の無いことだ」平丹羽はそっぽを向いた。 「そうでしょうか?」 「なんだと?」 「わたしなりに、いくつか可能性を考えてみたんですよ。まず一つは、ほんとに単純に商品が良いと思ったから。それからもう一つは、堀木満菜自身ではなく、会社と何か関係があるから。後は、これが一番簡単な可能性ですけど、先輩が、堀木満菜のファンで、会いたがってるから」汐里は少し間を取って、相手の様子を窺った。 「どうですか? 正解は?」
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