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「残念だが、正解はない」
「嘘はやめてください」
「嘘じゃない」
「じゃあ――」
「満菜のファンなのは俺じゃない」
「え?」
「妹だ」
「あ……そういう……」
「親が無茶なことを言うんだ。同じ学校にいるなら、会ってサインの一つでも貰ってこれないのかって。母さんに至っては、それを誕生日のプレゼントにしようなんて思ってるのさ」
「それであんなことを?」
「苦し紛れの策だよ。雑誌のインタビューで見たんだ。ある程度地位を確立するまではって、そう言っていた。いつも不安なんだと。彼女の商品が売れれば、多少学校に来易くなるかもと思ったわけさ。安易な発想だよ」
「つまり、先輩は彼女を学校に来させたいってこと?」
「まあ、そうなるな……」
「なんだ」汐里は笑った。「わたしと一緒じゃないですか」
「は?」
「わたしもずっと思ってたんですよ。堀木さんって、学校で一回も見たことないな~って。どんな人なのかな~って。わたし、気になったことはほっとけないタイプで。そういうことならわたし、協力しますよ」
思わぬ一言に、彼は耳を疑った。「今なんて?」
「だから、協力しますって!」立ち上がる汐里。「知ってますか? 芸能活動をしてる高校生って、休みの間に補習を受けたりするらしいですよ。そりゃあ学校にもよるでしょうけど、これからの夏休み、ここは一つチャンスですよ。こっそり満菜が現れるかも」
「君はどっちの味方なんだ?」平丹羽が訊いた。
「どっちの味方でもありません。わたしはわたしの知りたいことを、追い求めてるだけです」
汐里が手を差し出した。それは一度、彼の計画をふいにした相手の手だった。だが、もう満菜に会えるのは当然とでもいうような自身満々の顔に少し圧倒され、ともすれば気力を貰い、彼はその手を取った。そして新たな計画へ向けて、彼はまた立ち上がった。
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