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「あなたはどこの部?」郁実が遮った。
「ボ、ボードゲーム同好会です」
「ボードゲーム? ああ、あなたこの間、どこかの大会で優勝したんじゃなかった?」
「あ、はい! えっ!? 知っていただけてるなんて……光栄だなあ」宮間は照れくさそうに頭をかく。
「まだ同好会なの? 申請すれば部にしてあげるわよ?」
「えっ、ほ、ほんとですか!?」喜びに慌て、挙動がおかしくなる宮間。「やった! 後輩たちへの良い置き土産になります。じゃあ、後ですぐ」言いながら、紙になにかを書くような仕草をし、彼は本来の目的を忘れて座った。どこからか、宮間に対する祝福の拍手が沸き起こり、郁実も続いた。谺する喝采は、荒天時の大波のように平丹羽の居所を覆い隠した。
「じゃあ、今日はこれくらいで終わりにしまょう」郁実が言い、優子が書類をまとめているところにさりげなく平丹羽の提案書を差し込んだ。二人は立って歩き出した。
「ま、待ってください!」平丹羽は叫び、郁実の傍に駆け寄った。「まだ終わってないでしょう。どういうつもりですか! 話し合いを、生徒の声を無視するというのですか!?」彼は必死の形相で彼女に食らいついた。
郁実は冷静だった。「やっぱり、あなたは理由付けが上手ね」
平丹羽は黙り込んだ。全てを見透すような一言に、彼は身震いした。
「話し合いはもう終わったわ」郁実は続けた。「あなたがそこまで言うなら一度試してみてもいいわ。話は通しておくから、もう今日は終わりにさせてよ。暑くって」
郁実は立ち去っていった。しかし平丹羽はこの短時間の激しい変遷を思って、その場にしばらく立ち尽くした。
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