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七月の定例会議。彼の次なる計画――提案とはこうだった。つまり、前回のカミングクーに続き、今度は高カカオチョコレート、『ドクターカカオ』を生徒たちに配ってはどうかというのだ。
「チョコレートには疲労回復効果があるんです。ご存知ありませんか?」
郁実はムッとした。「知ってるわよ。でもなんでこれなの? あなた最近おかしいわよね? なに? これも堀木満菜関連?」言って、優子を見た。優子はどぎまぎしながら考えて、やがて首を横に振った。
「ああ!」と声を上げ、一人の生徒が手を叩いた。「あれですよ。堀木満菜が」
「やっぱりそうなの!?」と、郁実は平丹羽を睨み付けた。
「カミングクーとはまた違うんですけど、堀木満菜がちょい役で出てるドラマで、その中で彼女がいつも食べてるんですよ」
郁実は哀れみともとれるような視線を平丹羽に向けた。「あなた、そんなに堀木満菜のファンだったの?」
「私はただ、生徒のためを思って言っているだけです」
「そう。だったらこのドクターカカオとやらはどう生徒たちの為になってくれるの? 別に、他のチョコレートでもいいはずよね?」
「それは、この商品が他のものより優れているからです。チョコレートとしておいしいだけでなく、効果の元となるカカオポリフェノールが非常に多く含まれています」
「なるほど。クーラーボックスもあるし、溶ける心配もないものね?」
「そうです! 会長、どうかご検討を」
「だけどね」
「待ってください。わかってます。効果のほどですよね? 中谷さん!」
平丹羽が揚々と呼びかけたものの、彼女が立ち上がることはなかった。
「中谷さん?」歪な沈黙が落ち、彼は群れを逸れた羊のように視線を右往左往させた。
「今日はその手には乗らないわよ」微笑む郁実。「話し合いは終わりね」
その日、生徒会室のクーラーは設定温度25度で、黙々と自分の仕事をこなしていた。
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