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「お待たせ」
かけられた声に見上げると、すぐ前に、待ち合わせしていた友紀菜ちゃんの姿があった。
「遅れちゃってごめんなさい」
「いや、全然大丈夫だから」
「あれっ、その花はどうしたの」
友紀菜ちゃんは僕の足元の黒百合の花を指さした。
「なんか、いつの間にか置いてあったんだ」
「いやだ、気持ち悪い。正体がわからないものには触らない方がいいわよ」
「あ、ああ」
「早く行きましょ。私は今日のこと、ずっと楽しみにしていたのよ」
「そうだね。行こうか、友紀菜ちゃん」
僕はゆっくりと立ち上がった。
その時、僕の頭の中で何かが引っ掛かった。彼女の名前は友紀菜、漢字は違うけど読みにユキがはいっている。昔話でも似た場面があった。『事件』の後、巡り合った女性が実は……。
まさか、でも、もしかしたら……。僕はおそるおそる彼女の手を握った。
そして、
友紀菜ちゃんの手は、柔らかくて温かかった。
「あたたかい」
思わずつぶやいた声に友紀菜ちゃんは首を傾げる。
「何、当たり前のこと云ってるのよ。でも……、約束はきちんと守らんといけんけぇね」
彼女はにっこりと笑った。
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