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だぁれーだ
「誰ーだ?」
いきなり後ろから回された手で両目を塞がれた。顔にぴったりと被せられた手のひんやりとした感触に面食らう。
一体、誰がこんなことを……。場所は彼女と待ち合わせをした駅前広場、時間は待ち合わせ時刻の二分前という状況からすれば、答えはただ一人しかあり得ない。もしも名前を言い間違えたりしたら、修羅場になりかねない場面なのだけど、耳元で聞こえた声は断じて彼女のものではなかった。
女性の声だけど、物憂げで感情を抑えているような気配(けはい)があった。いつも自分の想いをストレートにぶつけてくる彼女の声とは違っている。知っているどの女性の声とも異なっていたけど、なんだか遠い昔に聞いたことがあるような気がした。
ひんやりと冷たい手の感触も、記憶の奥底に何か引っかかるものがあった。
「もぉ、忘れてしもぉたん?」
耳元の声が少し寂しげになった。その声とひんやりとした手の感触が結びついて、一つの記憶がよみがえった。
「もしかして……」
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