だぁれーだ

2/7
前へ
/7ページ
次へ
 十年ほど前、まだ小学生だった頃だ。祖母の実家があった山奥の村を家族で訪れたことがあった。十二月の終わり、年末の押し迫った時期で、村も周りの山々も深い雪に覆われていた。  大人たちが年越しの準備で忙しくしている中、僕は一面の雪が珍しくて、祖母の家を抜け出して、村の背後にそびえる山につながる山道を上って行った。山道の雪は踏み固められていて、子供の足でも容易に進んで行けた。  しばらく上って行くと山道の脇に木々があちこちに立つ雪原が現れた。雪原や木の枝を覆う雪が日の光を受けてきらきらと輝く様子は美しかった。僕は山道を外れ、雪原に踏み出した。踏み荒らされていない雪はざくざくと音をたてて沈み込む。それかが面白くて、僕は雪原を進んで行った。振り向くとはっきりとした足跡が続いているのが見え、これなら道に迷うことは無いと思った。  雪原の中をずいぶん進み、周りを木々に囲まれた林に入った時、辺りの様子が変わった。木々の間から湧き出すように白い霧が現れて、たちまち四方を覆いつくした。頭上にも霧がかかり、さっきまでの青空がまったく見えなくなった。  霧はドライアイスの白煙のように濃く、伸ばした手の先さえ霞んで見えた。四、五メートル先は白い壁で覆われたようでその先が全く見えなかった。    僕はあわてて来た道を戻ろうとした。でも、白い霧の中で足跡は見えにくく、気が付いた時には目の前の足跡は消え失せていた。おおまかな方向は間違っていないと思い、そのまま歩き続けたけれど、いくら進んでも踏み固められた山道にはたどり着けなかった。  とうとう僕は歩き疲れて、霧の中から現れた大きな木の下で座り込んでしまった。地面の雪や周りの白い霧から、冷たさがどんどん体の中に入って来る。もう、方向もわからなくなった。僕はひどく心細くて、一人で山に来たことを後悔した。  その時、
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加