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やがて、僕たちは雪を踏み固められた山道に出た。相変わらず濃い霧に囲まれていたけど、村に近づいていることは間違いなかった。
山道を下って行くうちに、女の子の口数は少しずつ少なくなっていった。霧も薄くなっていき、眼下に広がる景色の中にぼんやりと村の姿が見えてきた。
「ほら、あれが君たちの村じゃけえ」
女の子の声が少し寂しげに聞こえた。
「この先は一本道じゃけぇ、一人でも大丈夫じゃろぉ。うちはここでいぬるけぇね」
「うん、案内してくれてありがとう。何かお礼を……」
「お礼なんてええよ。その代わりにひとつ約束して。山でうちに会ぉたこと、村まで案内してもろぉたことは誰にも話しちゃあいけんよ」
「え、どうして?」
「それがうちの里の掟ちゅうか、決まりなんよ」
「よく、わからないけど……、君がそうしろと言うのなら」
「じゃあ、約束よ」
「約束だ。今日は本当にありがとう」
僕は女の子と握手して別れた。彼女の手はやはりひんやりと冷たかった。
祖母の家に戻った僕は、僕がいなくなったことで大騒ぎしていた大人たちにひどく怒られた。危険だからもう一人で山に行ってはいけないとも言われた。
僕は女の子との約束を守り、山で彼女に会ったことは誰にも話さなかった。村に滞在していた間だけではなく、その後もずっと。
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