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もしかしたらと、僕は目隠しをしてきた女性に話しかけた。
「君は僕が雪山で道に迷った時、助けてくれた女の子なのか?」
「そうよ、ちゃんと覚えとったんやね」
耳元の声に安心したような響きが加わった。
「あれから、ずいぶん経っているよね。どうして今ここに?」
「いろいろあるけど、もっぱらは約束の確認と念押しのためなんよ。たちまちは約束の確認、うちに会ったことや村まで案内してもろぉたことは誰にも話しとらんよね?」
「うん、誰にも話していない」
あの出来事の後、祖母が町中に引っ越したため山奥の村を訪れたことは無かった。約束を守ったと言うより、その機会がなかったと言うのが正直なところだ。
「よかった。次は念押し、これからもうちのことは誰にも云(ゆ)うたらいけんよ。たとえそれが心から信頼する人であってもね」
「うん」
「もし、云うたりしたら君をうちの里に連行していくことになるけぇね。それがうちの里の掟なんよ」
ひどく物騒なことを言っている。まるで……。
「会ったことを誰にも言ってはいけないなんて、なんだか昔話の雪お……」
「しっ!」
僕の言葉は途中で遮られた。
「それを云うたら、君をうちの里に連行して行かんといけんことになるけぇ……。うちはそれでもええんじゃけどね」
「……」
僕は押し黙るしかなかった。
「じゃあ、うちはいぬるけぇ。手を外すけど、十数える間だけ目をつぶっといて欲しいんよ」
「わかった」
目を覆っていたひんやりした感触が消えた。僕は訳が分からないまま、十数えて目を開けた。辺りを見回しても、それらしい人影はなかった。まあ、十年ほどたった今、あの子がどんな女性に成長しているかはまったくわからなかったのだけど。
ふと、足元を見ると一輪の花が置いてあった。茎と葉は百合の形をしていたけど、黒紫色をした花は少しずんぐりしている。あの日、雪原であの子が話していた黒百合かもしれなかった。それを手に取ろうと、しゃがみこんだ時、
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