ひんやりとした嘘

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「なんか薄気味悪いね……」 「まぁな」  古びた外観。老舗のそれとは明らかに趣が違っている。そして、外観の古さがマシだと思えるほどに朽ち果てた館内。部屋に案内してくれる客室係や廊下をすれ違うスタッフもどこか陰気な印象。廊下の床は踏みしめても木材らしい乾いた音は響かず、館内にはカビ臭いにおいが充満していた。 「俺は温泉があれば問題ないよ。お風呂大好きだからね」  男の人はみんな、こういうことに無頓着なのだろうか。旅館に着いてからも客室に案内されてからも、夫の様子は何ひとつ変わらない。  そんな夫とは対照的に、ソワソワしっぱなしの私。予約サイトのあの口コミが、私の中のイヤな予感をざわつかせた。  畳の上に敷かれた布団。早く眠りにつきたくて瞼を強く閉じるけれど、口コミの怪奇現象が気になって寝つけない。ラップ現象が起きるたびに寝返りを繰り返す。  眠りとの戦いに疲れはじめたその時、背筋にひんやりとした悪寒が走った。気づけば金縛りにあっていた。  身体を動かそうとしても、ビクともしない。四肢が釘で打ちつけられているようだ。全身が石のように固く、氷のように冷たい。それなのに、冷や汗だけがとめどなく流れる。  ついには呼吸することすら困難になった。誰かに両手で締めつけられているような首への強い圧迫感。こめかみの痛み、後頭部の鈍痛、大量の冷や汗。隣で眠る夫を起こそうにも、声がでない。  薄れゆく意識の中で、微かに目を開けることができた。霞む視界の中には、夫の姿はなかった。
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