夜の別荘にて。

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 もう日付も変わった頃だった。山道を走っていた自動車が突然ばすん、と不穏な音を立てて止まり、車中からは4人の男女、男性2人女性2人が下りてきた。 「ちょっと、どうしたのよ」 運転席でドライバーを握っていた男、更科豊(さらしなゆたか)は慌ててエンジンルームを見たが、暗くて何も見えなかった。 「誰か、携帯電話の懐中電灯で照らしてくれ」 「ちょっと待ってくれ…」 後部座席に座っていたもう一人の男、二階堂敬(にかいどうけい)は、着ていた服のポケットに突っ込んであった携帯電話の懐中電灯でエンジンルームを照らしたが…4人が息を呑んだ。どす黒いほどに黒い煙が細く立ち上っていた。 「参ったな…ロードサービスを…」 不運なことは続く。周りに民家らしい民家が存在しない山奥だったから、4人とも携帯電話が使えなかったのだ。 「しょうがない…」 豊のその言葉を、4人の中で唯一全身をブランド物で固めた女性、鷹司郁美(たかつかさいくみ)が即座に否定した。 「私は嫌よ。ベッドも無いお風呂も無い場所で一夜を明かすなんて、原始人みたいじゃない」 その言葉に、郁美を除外した3人は聞こえないように溜息をついた。郁美は前からこうなのだ。蝶よ花よ、乳母日傘と育てられてきた生粋のお嬢様で、どんな時でも自分だけが一番大事にされないと途端に不機嫌になるのだ。 「い、郁美…」 慌ててもう一人の女性、新堂棗(しんどうなつめ)が慌てて宥めようとしたが、郁美は両手を組んで仁王立ちのまま棗の言葉を遮った。 「誰か近くの家に走ればいいじゃない。こんなところで、壊れた自動車内で一夜を明かすなんて絶対に嫌よ」 「でも…」
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