一章 リクの思いは……?

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「じゃあ、いいよ」 「は?」  ユウは驚いた顔をしてリクの方を向いた。「今なんて言った?」とでも言いたげな顔だ。 「やっぱりいい」  そういうリクの顔は真正面を見据えている。 「え、それで足りるのかよ」 「だって……」  数秒間リクは黙ったまま、学校への道を急いだ。ユウが一歩遅れてついてくる。 「だって、やっぱり嫌なんだもん。『甘えてる』っていうのが」  人にお金貸してなんて言って『甘えて』、人を困らせるなんて、まるで子供みたいだ。そんなふうに友達に思われるなんて嫌だ。それ自体が、小学五年生のリクにとっては嫌だし許せない。 「いや、だけど、困った時はお互い様だって」 「いいって言ってるじゃないか」「リクがそこまで言うなら……まあいいか」  お金のことなら、なんとかする。足りないことがわかっているなら、そもそも野外学習でそんなに使わなければいい。友達の前にお母さんやお父さんに頼みこんで貸してもらえばいい。始めから友達に頼むなんて、どうかしているんだ。  リクは前だけを見て歩いていた。学校はもうすぐだ……。 「……ん?」  今、アスファルトを歩く感覚とは違うものを感じた。なにか、柔らかいものを踏みつけたような。  ワンワン! 「うわぁ!」  急に犬が飛びついてきた。小さな体で大きくジャンプして、前足の爪を立てて、しかも丸くて大きな目を吊り上げて。リクは足のバランスを崩したと思ったら、背中から地面に転んだ。両手で犬の襲撃を防ぐために受け身をとる余裕もなかった。背中から全身に向かって痛みが走る。  痛い! でも、その言葉さえ出てこない。 「や、やめてやめてー!」  犬はかわいいはずの表情を歪めている。しかし犬はリクの顔の前まで来て、ひっかく寸前で引っ張られた。「こらこら、やめなさい」中年のおばさん、飼い主だ。犬は後ろに引かれながらもリクへの攻撃を止めようとしない。  さっきの変な感覚はこの犬のしっぽだったみたい。気づかずに踏んじゃったんだ。だからこんなに怒っているんだ……リクはやっと理由がわかった。  ワンワン! 吠えながら、いつまでも前足で空を掻いて襲いかかってくる。 「ユ……ユウ、助けて!」  リクはいつのまにかユウの名前を大声で呼んでいた。近くで「あははは! だっせー」と知らない幼い子供の笑い声が聞こえ、リクには、赤面してため息をつくユウの顔が目に入った。  四時間の授業はあっという間に終わった。給食を食べて、五時間目もなく早々に帰ることになった。担任の先生は会議に遅れまいと小走りに教室を出て行く。 「ユウ、今日は一緒に帰れる?」
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