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一章 リクの思いは……?
「とうとう……この時がやってきましたね」
「ええ、そうね」
白い服を身にまとい、髭を生やした老人が目の前の女性に話しかけた。金色の刺繍が施された白いドレスを身にまとった女性は老人に背を向けながら、透き通るような声で返事をする。今いる場所が山の頂上だからだろう。金色の長い髪が優雅になびく。
女性は深い青色の瞳で両手にあるものを見つめていた。
今、女性の手には、『腕輪の姿をしたもの』が捧げ持たれていた。そこには、三つの丸いくぼみがあり、埋められる時を静かに待っている。
「これが、神によって託された、私どもの使命なのですね」
「そうね、百年前から定められていたこと」
「……それで、この『ホーリーランス』をだれに託すのですか?」
老人は一歩女性に近づいた。思わず体に力が入る。
「心配しないで、もう決めているの」
女性がこの腕輪を掲げると、腕輪自体がふわりと浮き上がった。今からとある人のところに向かわせる。
白くほのかな光を放ち始めた。
「野々橋リクという男の子よ」
「男の子? 子どもですか?」「ええ」
女性は老人に向き直り、告げた。
「今、これを託すのにぴったりな子だわ」
ベッドの後ろに置いていた目覚まし時計が、大音量で鳴り始める。カーテン越しに夏の暑い日差しが顔に照りつけてきた。朝だ。ベッドの住人はもぞもぞと動き出し、うるさい目覚まし時計に腕だけ伸ばして、止めた。
いつもは七時に起きて小学校へ向かう……時計が鳴って止められて、しばらくしてからベッドの住人はのんびりと伸びをしはじめた。
誰かが部屋の扉を開けたのを知って、野々橋リクはあくび混じりのあいさつをする。……まだ時計を見ていない。
「お兄ちゃん、学校遅れるよ? もう七時半!」
そう言って起こしに来たのは妹のリナ。もうランドセルを背負って学校に行こうとしていた。リナはリクより二つ年下の小学三年生だが、兄とは違って早起きでずいぶんしっかり者だ。
パジャマ姿の兄は耳を疑って思わずふとんを突き飛ばした。
時計を確認する。まずい、寝坊だ!
「もうこんな時間? ユウに怒られる!」
いつも一緒に学校へ行っている幼馴染ユウの声が聞こえてくる。また寝坊かよー、リクって小さい頃から毎回だな。ま、それを頭に入れて俺は早めに来てるんだけど。
大急ぎで部屋を飛び出してリビングへと走った。
「リク、また寝坊よ? やっぱり起こせばよかったわ。もう、早く食べなさい」
普段穏やかなお母さんがこの時ばかりは口調を強くしているが、気にしていられない。お母さんに言われるより前に、リクは牛乳をのどに流し込み、パンをほおばっていた。返事をしている余裕など、ない。
ピーンポーン。
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