一章 リクの思いは……?

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 チャイムが鳴った! もうユウが玄関前で待っている。  洗面台で寝起きの顔を洗い流し、歯磨きを十秒以内で終わらせる。部屋に戻って着替え、ランドセルを引っつかむ。家を出ようとした時、五時間目に使う体操服を忘れたことに気がついて、もう一度バタバタと階段を駆け上がった。結局チャイムは何回か鳴って、リクは息を切らしながら家の玄関扉を開け放った。 「始めのチャイムからリクが家を出るまで『三分十八秒』かかりましたー」  リクの息つく様子を見て、ユウは気味悪くニヤニヤ笑いながら知らせた。ユウはいつもリクが家を出るまでの時間を数えては楽しんでいるのだった。 「ごめんごめん」 「三分十八秒って最低記録だぜ? なんでそんなに時間かかるんだよー」  ユウは自分で言いながら、笑っていた。寝坊常習犯のリクのことだ。なぜ遅れたかなんて、聞かなくてもわかりきっている。 「忘れ物したんだよ。五時間目、体育あるでしょ?」  リクは乱暴に掴んだままの体操服をユウに見せた。あれ、ユウは体操服を持っていない。 「ざーんねーん! 今日は先生たちの大事な会議があるから、四時間授業だよー」 「そうだっけ?」 「本当でーす。昨日先生が言ってたろ? 聞いてなかったのか? 夏休み事前なんたらってやつ。っていうか、学校遅れるからもういこーぜ」  そうだった。明日は四時間授業、一学期最後の授業と先生が昨日言っていた。明日は修了式で、明後日からは夏休みだ。リクは夏休みが楽しみで仕方がなかった。五年生は夏休み中に野外学習があるし、ユウともプールに行く約束をしているのだ。 「なあリク、プールでお金どのくらいいるかな?」  歩きながらユウはリクに尋ねる。 「バス代と昼ご飯代もかかるから、余裕持って二千円くらいじゃない?」 「二千円な、オッケー」 「あ、それだとしたら、ぼく足りないかも」  リクは、はあとため息をついた。それを横目で見たユウが、ふっと笑う。 「今、三千円以下しか持ってなくて、二千円は野外学習にとっておきたくて、残りの千円で俺とのプール代。明らかに足りないな」  さすがは幼馴染の親友だ。リクの考えていることなんてお見通しらしい。 「そうなんだよ。ぼく、今二千円しかないんだ。プール代千円で足りるかな?」 「うーん……キツイと思うぜ。昼飯どうすんだよ」 「だよねえ。四百円でバスの行き帰り代に、六百円で昼ご飯、プールの入場料もいるから……」 「足りないんじゃないか?」  やっぱり念のために余裕をもたせた方がいいよな。なにがあるかわからないんだから。 「ユウ、少し貸してよ」「え?」  思いがけない発言にユウの目が丸くなった。 「お願い! お母さんから余分にお小遣いもらえなかったんだ」  パチンとリクの両手が鳴った。手を合わせてユウに頼みこむ姿勢をとる。ああ、こんなことしたのは何度目だろうか。 「えー、うーん、俺のが余ったらな。……ほんとにリクって、よく甘えてくるよな」 ふっと鼻であざ笑ったユウ。最後に言い放ったつぶやきを、リクの耳は敏感なアンテナのようになって聞き逃さなかった。聞きたくないことまで聞こえて来る耳だ。
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