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ランドセルを背負って、ユウの机に向かう。帰りも基本的にはユウと一緒に帰る。
「ああ、今日はサッカーの練習がないからな」
サッカーの練習。ユウは、地元のサッカークラブに所属していた。そこでレギュラーの座をとっていて、試合で活躍するために、ユウは日々練習を重ねている。リクも試合を観にいったことがあるけれど、確か、大シュートを決めた後仲間に髪の毛をくしゃくしゃにされていた。あの時のユウは、満面の笑みで輝いて見えたのをリクは覚えている。ユウの夢はプロサッカー選手。Jリーガーを目指しているのだ。
「なあリク、夏休みには大事な試合があるから、絶対見に来てくれよな!」
「わかってるよ。もうそのセリフ三回は聞いたよ」
サッカーのことになるとユウの目はキラキラと輝き出す。
リクとユウはいつものように一緒に学校を出て家に帰った。二手に分かれた道まで歩いて、そこからそれぞれの家路に帰っていった。
「ただいまあ」
「おかえり。今日は早かったのね。リナももう帰ってくるかな」
水の音が止まって、お母さんがリビングから顔を出した。食器洗いの途中だったようだ。「たぶんね」と適当に返事をしておく。荷物を片付けに行くために自分の部屋がある二階へ向かってお母さんが見えなくなってから、一つ、ため息をついた。
しっかり者の妹が帰ってくる。ぼくと違ってなんでもできる子だ。それなのにどうして兄であるぼくは全然違うんだろう。今日、またユウに言ってしまった。『お金足りないから貸して』、普通小学生がお金の貸し借りなんてしないだろう。よく考えるとお母さんに知られたら怒られそうだ。それに、今日はもっと大変なことが起こってしまった。犬に襲われてから、二時間目の終わりまでユウに顔向けできなかった。通りすがりの人にどれだけ笑われたか……恥さらしもいいところでたまらなかった。
ため息をつかずにはいられない。思い返すたびに落ちこんでしまう。ユウは笑って許してくれたし、何も気にしてないって言ってくれたけど……ぼくは気にするよ。
「はあ」
体が重くなったように感じて、リクはベッドに倒れこんだ。
ギラギラと照りつける真夏の太陽が、ベランダの窓からリクの顔に差しこんでくる。まぶしいな、これでは直射日光で昼寝もできない。閉まりきっていないカーテンのせいだ。
リクは、ぼんやりと外に目を移した。洗濯物の隙間から見える真っ青な空に、小さなものから大きなものまでふわふわと立ち昇る夏の入道雲。空って大きくて広い。見ていると自分が何もできないちっぽけなやつに思えてくるくらいだ。空に浮かぶ夏の雲を見てこんなふうに思ったことなんて今までないのに。
「……ん?」
雲の向こうで、何か飛んでいるようだ。時々ピカッと光るから遠い距離からでも見えた。きっと子供がラジコンを飛ばしているんだろう。高いところまで飛ぶんだな。そう思って少し浮かせた顔をまたふとんに落とした。
しかし……。
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