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「おかしいぞ」
その光はこっちに向かって飛んでくるような。
「なに、あれ」
リクは確かに近づいてくるその飛行物体を見て、ついにベッドから跳ね起きた。もっと近くで確認したくて洗濯物が干したままのベランダに飛び出した。見間違いではないようだ、徐々にこちらに近づいてくるような。小さな小さな飛行機が墜落していくように、隕石でも地上に落ちてくるかのように、それは猛スピードを出していた。
「えっ、えっ」
もしかして……リクの家の方に向かって飛んできてはいないだろうか。なんだなんだとリクがわけもわからずベランダの端から端まで行き来すると、飛行物体も同じように動いているように見えた。
動きを追っているように思えるのはリクの見間違いか?
「ぼくの方に向かってきてないか!?」
やがてそれはスピードを落とすことのないままリクの家、ベランダ、そしてリクの顔の前まで落ちてくる。もうだめだ、ぶつかる!
と、目をギュッとつぶった瞬間、時間が止まったかと思われるほど突然ピタリッと止まったようだった。リクの心臓も一瞬動きが止まってしまったかのようだ。
「ラ……ラジコンじゃない……?」
リクは淡い光に包まれている物体を見て、思わずつぶやいた。自分の目を丸めて疑った。
幅の広い腕輪のようだ。歴史の授業の資料集などで見たエジプトの王様がはめていたような、太くて肘近くまである大きなものだったので、それが腕輪だとわかった。宙に浮いたまま呼吸運動のように上下に動いている。しかも腕輪自体が光を帯びている。はっきりとした模様は見えないけれど、水中で揺れる草のような模様と丸い模様が交互に描かれていること、他に大きな三つのまるいくぼみがあることがわかった。
「な……なんだよ、これ。腕輪?」
自分では平常心で言っているつもりでも、恐ろしくて声が震えているのがリク自身にもわかった。足がガクガクして、とてもではないが立っていられない。
「ぼくに向かって飛んできて……危ないじゃないか!」
すると、どこからか知らない笑い声が耳の中に入りこんできた。右? 左? 上かな? その声は、しわがれた老人で、リクのことをおかしそうに笑っていた。
──ほっほっほ、これを一目見て『腕輪』だということがわかるのか、さすがは選ばれし者、筋がいいのう──
口がぽかぁんと開いてしまった。声がのどの辺りで詰まる。
「……しゃ……」
──これは『ホーリーランス』という名のもの。選ばれし者であるそなたに、真実……本当の自分を見つけさせ願いを叶えるきっかけを与えるもの。本当の自分を見つけたければこの腕輪をつけるがいい──
「しゃ、しゃべったー!」
ついにリクは足の力をなくし、尻もちをついてしまった。思い出して息をしようとすると過呼吸のようになってちっとも整わなかった。手にじっとりと汗がにじんでくる。夏の真っ昼間だというのに冷や汗をかき始める。それでもリクは時間をおいてゆっくり息をすることに努めた。頭の回転と声の震えがすこしでも戻るのを待った。
「ほ……ほーりー……らんす? なんだよそれ。突然、ぼくに向かってきたと思ったら」
ごくりと一息のんだ。のどがかわいて仕方がない。
──驚くのも無理はない。選ばれたのだからそなたの元にやってきた──
「な、なんだよそれ。わけがわかんない」
夢でも見ているのか? 暑さで頭がやられたか?
──もう一度伝えよう。自分を見つけたければこれをつけるがいい──
「べ、別にそんなの、知りたく……ない!」
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