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否定したはずなのに、意外にも腕輪の声はまた高らかに笑った。リクの反応が嬉しいのか、リクの何かが面白いようだ。
──そなたは面白いやつだな。だが、これはそれだけではない。『本当の自分』を知ること、そして願いを叶えることの二つが目的なのじゃ。シンジツノタマを探し、全てを見つけられたあかつきには、願いを一つ叶えてもらえる──
だめだ。まだ思考機能が戻っていない。この人が言うことの意味がさっぱりわからない。
「へ、変な……じいさん……だな。なに言ってんだよ、わけわかんない!」
リクは立ち上がった。ホーリーランスとかいうものを引っつかんで、ベランダの外へ思いっきり投げた。すぐに戸を閉めようとする。しかし、閉め切るより前に今度は家の中に入ってきてしまった。なんだよこれ、なんて速さで戻って来るんだ。リクは戸を開けて、もっと遠くへ投げた。また弧を描くように戻って来る。もう一度追い出しても同じことの繰り返し。外に投げているはずなのに地面まで届かず、壊れるどころか傷一つつかない。
たしかにリクは、小型犬に吠えられたくらいですぐ腰を抜かすような小心者で、しかも勇気がなくて、ユウのように男の子っぽくない自分がいつも嫌いだ。人に甘えたり、人にばかりすぐ頼ろうとしたり……なんて情けないんだろう。
本当のぼくはこんなんじゃない。もっと強い人間のはずだ。
そうでないといつまでも人にからかわれることになるし、ずっと今のままだ。本当の自分が何か見つけられるなんて……これを聞いて飛びつきたくなる。
──そなたはまさしく『本当の自分』を見つけるべき人間だ。あの者のようにならないためにも……。このままでは、危険すぎる──
リクの腕が、一瞬凍りついた。投げようとしていた力がするりと抜けた。
「キケン……? 危険ってどういうこと?」
「リクー、ちょっといい?」
一階からお母さんの呼ぶ声がした。一方でホーリーランスというものから、答えは返ってこなかった。まずいことを口走った子供が口を閉ざしたかのように見えた。
「は、はーい、何ー?」
変な空飛ぶ腕輪をこのままにしておくのも嫌だったので、乱暴につかんで机の深さがある引き出しに放りこんだ。そしてリクは、何事もなかったかのように一階へ駆け降りて行った。
今日は修了式だ。あと数時間で夏休み。家族四人での朝食をとる朝はいつもと全く変わらない。リクの机の引き出しにホーリーランスがあること以外は。
「夏休みさ、どこか行かない!?」
唐突にリナは元気一杯の声で提案した。ずっと言いたくて仕方がなかった言葉をようやく言えた様子。お父さんとお母さんも特に拒否することなく頷いた。
「どこがいい? 夏休みだし、どこでもいいぞ」
その言葉をずっと待っていました! とでも言いたげにリナが続けた。リナの行きたい場所と言ったら、もしかして。
「ならさ、遊園地に行こうよ!」
ギクッ。リクの心臓だけは驚いた。
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