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友人
目を覚ますと午前四時だ。微妙な時間に目が覚めたものだと思っていると右の薬指にはめている指輪が怪しく光る。
彼女と同じもの。俺が交際を始めて一年の記念日にプレゼントしたものだ。口が緩む。彼女は俺の希望だ。絶対に危険な目にだけはあわせたくない。
俺は背伸びをすると、こんな時間に失礼かと思いながらもメール一覧を開き彼女の名前をタップすると、『会いたい』と入力し、少し戸惑いつつも送信ボタンを押す。
彼女を不安にさせないためにも黙っていたが、これ以上は危険だ。全て彼女に打ち明けるべきだろう。そんな思いもこめたメールだった。
だが、彼女からの返信は三日経っても来なかった。
「彼女からの返信が来ない?」
「あぁ。そうなんだ。」
俺からの異常な雰囲気を感じ取ったのか友人の藍本美玲は講義が終わった瞬間に俺を引っ張りだし、近くの喫茶店まで連れて行く。
彼女は幼馴染で、色々な相談に乗ってもらっている。美咲との事や、ストーカーのこと。なんでも話せる友人の一人かもしれない。
「あんたさぁ。それ愛想つかされたんじゃない?」
馬鹿にしたような揶揄い口調で笑いながら言い放つ。こいつ…。事の事態を把握してるのか?
俺の無言の圧に耐えかねなったのか。「ごめんごめんって。」と調子よく開き直る。
「でも、もしそのストーカーに何かされたとしたら、かなりやばい状況だよね。…最悪…命の危険だって…。」
彼女の言葉を聞き、俺は勢いよく立ち上がる。椅子は勢いで後ろに倒れる。
「何言ってるんだよお前…!!」
最悪の事態が頭に浮かび、混乱のあまり正常を保っていられなくなった俺は、場所も考えず、美玲に怒鳴った。
「ちょっと…!!落ち着いてって!!もしもの話で可能性は低いって!!…流石にストーカーさんもそこまでしないでしょ。」
確かにその通りだと心を落ち着け、椅子を立て直し静かに座る。
「すまない。取り乱して。」
「別に大丈夫。それにしても幸せものだねぇ。葵にそこまで思われてるなんてね。…まぁ他にも携帯落としたとか、病気だったとか色々あるかもしれないし、もう少し待ってみなよ?」
彼女は、大人の笑みを浮かべ、そう俺に諭す。確かにその通りだ。たったこれだけで焦りすぎだった。
「警察は?」
珈琲を啜りながら、美玲は真剣な目つきで答えを待っていた。
「動いてくれない。対処するとは言ったが、やはり、手紙や郵便物だけじゃ、俺への直接的な被害にはならないから、本気では動いてくれないし、犯人をつきとめてはくれない。…くそ…。」
予想通りの答えだったのか。目を伏せて、申し訳なさそうな顔する。
「そんな顔するな。こうやって話し聞いて貰ってるだけでも感謝してるから。」
「何よ急にさぁ?」
そう言って笑う彼女の笑顔に元気づけられる。
「提案なんだけどさ、しばらく私と彼女の振りしない?そうすればさ、ストーカーがもしかしたら私をあんたの彼女と勘違いして美咲ちゃんに手を出さなくなるかもしれないじゃない?」
確かにその通りだ。ここは彼女の策にのってみることにした。その日はそれで解散し、それから四日間、美玲と彼女の振りを続けた。
しかし、五日目。美玲が音信不通になった。
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