4人が本棚に入れています
本棚に追加
魂の真の姿
強烈な痛みを感じたのは一瞬で、すぐに意識は遠のいていく。
百合奈はぼやけた視界の中で、不気味に笑う男の顔を見た。
まさか、華の女子高生である私が、こんな男の手の中で死ぬなんて……
そう思った瞬間だった。
視界が突然切り替わり、目の前には晴天の空。
そして自分の身体が誰かの腕に抱きかかえられていることに気づく。
それだけじゃない。なぜか自分を刺した相手が真下にいるのが見える……もしかして、早くも幽体離脱しちゃった?
「な、なんだお前は!」
ナイフを握った男が木の上を見て叫んだ。そこには、ついさっきまで自分の手元にいたはずの娘を腕に抱えているスーツ姿の人物。
「その子は俺の獲物だぞ! 邪魔をするな!」
「悪いな変態狸オヤジ。コイツには俺の今月の家賃が掛かってる。だから、殺されるわけにはいかないんだよ」
落ち着いた口調でツバサはそう言うと、真紅の色に染まっていく百合奈の胸に右手を近づけた。
するとその指先が、彼女の身体の中へとゆっくりと入っていく。
俺たち天使の右手は輪廻を司る手。こいつで人間の胸元に手を入れて心臓を貫けば、魂の扉が開く。そして……
「おい! 緑のへんてこスライム! 出番だ!」
ツバサの声と共に、彼のポケットから顔を出したスライムがぴょんと飛び上がった。
そして、ツバサが突き刺している彼女の胸元の中へと入っていく。
その瞬間、落雷にも似た光が一瞬周囲を包んだ。そのあまりの眩しさに、ナイフを握っていた男の目が眩む。
男が再び瞼を上げた時、今度は恐怖の滲んだ叫び声が辺りに響いた。
「……な、なんだそのバケモノは!」
最初のコメントを投稿しよう!