役立たず天使

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役立たず天使

「ちょっと待てよ! 家を追い出すって……俺は天使だぞ!」  まるで宮殿のような事務所に、男の憤る声が響いた。だだっ広い室内には、他に誰もいない。 「ツバサよ、そんなことわかっておる。じゃが、家賃の滞納、それに電気代と水道代。しかも今月はガス料金の締め日もとうに過ぎておる。そんなお前さんに、家に住む権利があると思うか?」    しわがれた声で相手は言った。目の前にいるのは、銭湯の受付でもやってそうなヨボヨボな婆さん。 名前は『絶燕大菩薩(ぜつえんだいぼさつ)』といい、一応自分たち天使が住む世界の一番偉い人。 親しみを込めて『ゼツ婆』と内輪では呼んでいるが、本人に言うと怒るので言っていない。 「いいかいツバサ? あんた先月何人の人間に『魂』届けた?」 「何人って……」  ツバサはそこで眉間に皺を寄せると無精髭をガリガリとかく。 覚えている限り、俺が先月魂を届けたのは、孫のためにあと二年は生きたいと願ってた病気のばーちゃんと、自殺途中で「やっぱ死ぬのは嫌だ!」と泣きわめいていた中年サラリーマン。つまり二人だ。 「二人……だな」  ぼそりと答えた言葉に、ゼツ婆は「はあ……」と頭を抱える。そしていつになくしわがれた声で話し出す。 「いいかい? わしらの仕事は天寿を全うすることなく不慮の事故や病で死ぬ運命にある者に、新しい『魂』を届けて延命させることじゃ。その対価として、神様から生活費や住む場所を与えてもらっておる。じゃか……」
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