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※
四十代くらいだろうか、女性がこちらに向かってゆっくりと近付いてくる。たぶん母親だろう。
「光のお友達? それとも恋人?」
優しい声だった。
「あっ。えっと、ただのクラスメイトです。勝手にすみません」
涙を拭き、立ち上がり居住まいを正した。
「いいのよ。そのままで気が済むまで一緒に居てあげてちょうだい。光も喜ぶと思うわ」
「あ、あの。ただのクラスメイトではなくて、その最後トラックに轢かれた時、一緒に居ました」
「そう。 あなたがそうなのね」
「本当にすみませんでしたっ」
頭を深く深く下げた。謝っても謝りきれない。
肩に感触を覚えた。それが手だということにしばらく気が付かなかった。
「頭を上げて、あなたのせいじゃないわ。悪いのはあのトラックの運転手なんだから」
居眠り運転の信号無視だったと後から聞かされた。
「でも、でも……」
「もういいの。もう少しだけ光と一緒に居てあげてくれる?」
「はい……」
それ以上は言葉にならなかった。
棺の中をもう一度見遣る。
最後にもう一度だけ、と頬を撫でる。
いつまでも、御堂くんの頬はひんやりと冷たかった。
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