冷たい手

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変な意味なく言ったはずなのに、誘っているような表現になってしまった。穴があったら入りたい。 ただ、今は頭がグラついて動ける状態でもないが。 そして、私同様に穴に入りたそうな彼は、逃げ出す事もなく、先輩が来るまでの数分間私を冷やし続けてくれた。 医務官が到着し私を診ている間に彼が立ち去ろうとして、ギル先輩が頭を下げる。 「神官様のお手を煩わせてしまい、申し訳ございませんでした」 「いえ、僕は何も……」 「貴重なお時間を……」 「本当に大丈夫なんで……」 彼は照れながら、逃げるように去っていく。 「彼、神官様だったんですか?」 「気付いてなかったのか?」 「見上げていたので服装までは見えませんでした」 彼の服装は、長袖で足丈まで裾のある暑そうな真っ黒いローブで、神官の正装だった。 「神官って、偉そうに威張りくさった嫌な奴しかいないと思ってました」 「おまっ……そういうのは、城下町の酒場で言え」 ギル先輩は慌てるが、医務官はクックと笑う。 「新人ちゃんは怖いものなしだね。だが、神官様の反感を買ったら大変だよ」
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