第5章 彼の知らないわたしの実情

2/8
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「あの。…お前、ちゃんとピル飲んでるよな。俺さ、…つけないでこのまましてもいい?病気なんか絶対持ってないよ。ちゃんと定期的に診てもらってるし。それは全面的に保証する、から」 「それは。…まあ」 曖昧な気分ながらも頷く。集団でするときは、当たり前だけど全員絶対に避妊具装着厳守ってことになってる。 何があるかわからないから自衛の意味もあって長年ピルは欠かしたことがないけど。妊娠するしないの問題じゃなく、誰か一人が病気を持ち込めばあっという間に感染して蔓延するのは目に見えてるから。直にしない、ってのは学生のクラブの頃から乱交の現場では鉄の掟だった。 避妊具を着けるのはだから当たり前すぎて、それを不満に思ってる男がいるってこともわからなかったけど。さっきまで集団でわたしとしてる時はこいつもみんなと同じようにきちんとゴムを装着して特に不服な様子もなかったのに。二人きりになった途端、最近はなしでしたがるようになってきた。 「病気持ってないって絶対の自信があるならそれは、…でも、なんで?着けてると気持ちよくないの?もの足りない?」 奴は生真面目な顔で首を横に振ってみせた。 「そんなことない。お前の中、いつも最高にいいよ。着けててもなしでも…。でも、茜と二人きりの時くらい、生でしたいんだ。あいつらとは違うって。…俺だけ特別でも、いいだろ?」 そんな訴えかけるような眼差しで言われても。 こいつの意図がよくわからない。なんとなくの独占欲みたいなものなのかな。でも、わたしたちは全然そんなんじゃないのに。 戸惑いながらも絶対にやだ、と突っぱねるほどの根拠も見当たらない。わたしは釈然としない思いを抱えつつ、とりあえず請け合った。 「川田がその方がいいなら。…わたしは構わないけど。ほんとに何かうつしたりしないでね、そこは責任持って」 自分の方はピルを処方してもらうのはもちろん、定期的に診察も受けてるから特に異状はないって断言できるけど。こいつが本人の主張通りクリーンなのかどうかはもう信用するしかない。念を押すと、奴はやけにきりっとした表情を見せてきっぱりと言いきった。 「それは大丈夫。大切なこの身体に害をなすようなこと。俺がするわけないってお前にもわかるだろ。…茜を病気になんかしたら。元も子もないよ、お前の身体が何より第一なんだから。俺には…」 またそんなこと。内心呆れつつも素直に脚を開いて自ら奴を受け入れた。 こんな甘い声出しちゃって。でも、本人もはっきり断言してる通りあくまで身体の話だ。それ以上でもそれ以下でもない。 お互いそのことは承知で、なんの不満もない。…だって、こんなに。 「あ、あぁ…、っ」 思わず知らず、深いため息が喉から漏れる。蕩けきってもの欲しげに開いたそこに、深々と熱くて硬い大きなものが埋め込まれて。…いっぱいにわたしを満たして、それだけで充足させてくれる。ぴったりと過不足なく収まったそれに、わたしは満足の程でうっとりと呟いた。 「川田。…すごい、いい。…これ…」 奴はわたしの上で微かに喘ぎ、身をよじらせて応えた。 「茜こそ。…めっちゃ気持ちいい、中。…は、…あぁ。お前だけだよ。…こんな…」 わたしたちは身体の表面を火照らせ、身も世もなく喘ぎ、腰を遣ってお互いを深く味わおうともがいた。…さっきまでの肉体を玩具にした乱交も、卑猥な際どい悪戯も。いつもわたしを無茶苦茶に興奮させるしほとんど暴力的なくらい激しい快感を与えてくれる。だけど、これは。 そういうのとはまた全然違う。じんわりと深くわたしの奥から満たして、感じさせてくれる。忙しなくかき立てて絶えず追い立てられるみたいな荒々しい快楽じゃなくて。…わたしを隅々まで潤して、全部をいっぱいにしてくれる。 思えばこれも、さっきまでの快楽と虐待の狭間のぎりぎりの責めの後だからこそ味わえる歓びなのかもしれない。飛びそうな思考をかき集め、霞む頭でうっとりと考える。 常軌を逸脱したプレイで散々貪られ、もう無理ってほど何回も繰り返し限界に達したあとでの熱っぽく宥めるような、ごく真っ当なやり方のセックス。 前段階で男たちに次々と過激にされたことの直後じゃなかったら。ただの普通で平凡なありふれた行為としか感じられないのかも。 …こんな深くから、全身をじんじんとたまらなく痺れさせるような。この上ない歓びと高みを知ることは、なかったのかもしれないし…。 わたしの方だけじゃなく。向こうも同じように感じてるのかもとふと思ったりすることがある。 「あ…、ぁ。…あかね…」 腰を柔らかく、でも執拗に遣って奥を責め立てながら、川田が甘い声でわたしの名を呼び、喘いだ。 「あんなに、男たちにむちゃくちゃにされて。…さっきまでエッチで凶暴な牝の獣みたいだったのに。…俺の前だと。こんな素直で、可愛い蕩けそうな顔して。…あぁ、もお。たまんないよ」 ぎゅっときつくわたしの身体を抱きしめて、甘く唇を貪ってから息も絶えだえのわたしに耳許で囁いた。 「もっと、我慢しないで。…いっぱいすごい声出して。いいよ…」 明らかにさっきのわたし、男たちの集団に弄ばれて次々に犯されてた卑猥な姿を思い起こして欲情してる。その身体をこうしてそのあと一人きりで独占してることに、抑えきれない興奮を覚えてるって様子が見え隠れしてる。…わたしの身体の反応を確かめるように弄り、我を忘れて夢中で貪ってるんだ。 でもそれはお互いさまだ。異常な集団プレイの後だからこそわたしは身体を甘く優しくケアしてもらって深い満足を得てるし、向こうはわたしの恥ずかしい痴態を思い出して欲情を満たしてる。全ては前段階のあの刺激があってこそのこの関係なんだと思う。 「茜、…ああ。お前って。…ほんとに、どこも全部。可愛いよ…」 「川田。かわだ。…うぅん、いいの。あんたの、これ。大好きなの。…もっと、して…」 奥深くをじんじん感じさせながら、名前を呼びあって脇目も振らずに夢中で身体を擦りつけ合う。本能に駆られた二匹の抑制のない発情期の動物みたいに。 わたしたちはもしかしたら。終わったあとこうしてお互いを味わうためのスパイスとして、あの乱交を必要としてるだけなのかもしれない。と掠れた頭の中でふと思う。 こっちがメインで、あれは主食を美味しく頂くため、食欲を刺激して味覚をより覚醒させるためのただの前菜。二人とも事後のこれを深く愉しむ目的でわざわざあんなことをしてるのかな、と時折感じなくもないかも…。 声をあげて激しく身体を絡ませあううち、いつしかお互いメンテナンスも何もなくなってあられもなくむき出しの欲情をぶつけ合っていた。 「んん…っ、あぁんっ、いい、もっとぉ…」 身をよじらせて奴を含んだ腰を振り、切なくねだる。川田はわたしの上で喘いでぐっとしがみつき、甘い声を漏らして唇を求めてきた。 「あかね。…茜。…いいよ、これ。…最高…」 肌の感触を味わうようにぴったり身体をくっつけて、激しく腰だけを遣って奥を無茶苦茶に突き上げる。わたしはぶるぶると震えて、届くはずのないくらい奥に感じるこの上ない快感を味わって深い満足を覚えた。…あぁ、そんなとこまで。熱くておっきいのでずんずん突かれたら。 …もぉ…。 わたしはなり振り構わず奴にひし、とすがり、あられもなく両脚を思いきり拡げてその背中に絡ませた。それをより深く、一番奥に感じられるように。甘い声を上げると自分の中がきゅうっと締まり、奴を離すまいときつく吸いつくのがわかる。 「あ。…も、だめ。いく。…いっちゃうのぉ、あぁ…。かわだ…」 「あっ、俺も。…も、いくよ。…あぁ、出る。…あかね…」 わたしたちは夢中でお互いの口を求め合い、背中を痙攣させて奴の放出の瞬間を味わった。最早自分がびくん、びくんと強く震えたのか、わたしの腕の中の川田の身体の表面がびくびく反応したのか混乱してよくわからない。 ただこの上ない満足感で脱力し、二人して身体をぴったりくっつけたままぐったりとベッドの上で地球の引力の強さをただひたすら感じていた。 「…茜」 動悸と荒々しい呼吸がある程度落ち着いたところで川田はわたしの名前を呼んで、改めてきゅ、とその両腕を身体に回して胸の中にすっぽりと収めた。 「ごめん、思いきり中で。…いっぱい、出しちゃった。かも」 わたしはとろんとした目を上げて、ずきずきする余韻で全身を波打たせながらまだ朦朧とした声で応える。 「いいよ、別に。最初からちゃんと断ってのことだし。…ああ、でも。ティッシュ使わないと。ベッド、汚れちゃう」 まだ終わった状態の奴がわたしの中に入ったままでぴったり栓をしてるけど。これ、抜いた瞬間どっと溢れてくるな。と思ってその胸の中から身体を捩って腕を伸ばし、ベッドの端に置かれたティッシュの箱に何とか手をかけようとすると首を振って奴がのしかかって押さえ込んできた。 「いいよ、まだ。…このまま、くっついていよう。離れることない」 大きな熊の子みたいに甘えて身体を擦りつけてくる。わたしはひやひやしながら奴の栓が外れないよう腰を動かしつつ抗弁した。 「だけど。…早く処理しないと。このままじゃ、シーツ汚しちゃう。あんたの出したので」 「そんなのいい。こうして余韻を味わってる方が。…俺んちのベッドだし。あとでシーツどうせ洗うから。お前はなんも気にしなくていいよ」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!