第5章 彼の知らないわたしの実情

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エキストラ役の男たちをその都度交えるとはいえ、基本的にパートナー以外の相手とはしないわたしたちなんだから。普通に考えたら二人で結婚すればいいんじゃないのと思われても仕方ないのかもしれないが、結局お互いの間でそういう話になることはなかった。 唇を熱っぽく貪られて身体の芯の部分を再び潤わせ、呻きながらも脳内では思考があれこれと進行してゆく。 本人としてはどうやら、自分の仕事や収入の面で引っかかる部分がないとは言えない様子ではある。奴の職業は実はフリーのライターで、仕事は全然ないこともないし、自分一人食べていくのは何とか今のところは出来てるけどね。と少し気が引けたように言い訳してるのを聞いたことがあるから。 将来的には本格的な物書きになりたいって思いがあるらしく、それに向かってちゃんと前に進んでるなら別に問題ないんじゃないの、と傍で見てるこっちは思うけど。お前ほど安定してきちんとした稼ぎもないしな、と以前自嘲してたこともあるし、そこは奴が結婚とかに踏み切れない一因になってないとは言い切れない。 だけど、わたしたちが結局入籍しようとかいう気にお互いなれなかったのはそこが一番の理由じゃないんじゃないかって気はする。 「あ、…っ、やぁん…」 身体を重ねたままわたしを仰向かせ、覆い被さって焦らすように腰を弾ませ始める。片手を前に差し入れて指先で開いたそこの小さな突起を柔らかく揉みしだいて、わたしの欲情を再びかき立てようとしてる。 思わず喘いで甘い声を漏らし、ぎゅっと奴にしがみつくと驚くべきことに中に残ってたまま萎えてたこいつのそれが、またあっという間に硬く膨らんでいっぱいにきつくそこを満たしていくのがありありとわかる。わたしは切なく身をよじった。 ああ、もう。…やっと何もかも終えて深い奥まで満足させられて鎮めてもらえた、と安心してたのに。 せっかく落ち着いたところにまた変な刺激を受けたら。呆気なくあっさりと、さっきまでのいやらしい、エッチなわたしに戻っちゃうよ…。 わたしは脚を大きく開いて奴を更に深い奥まで導こうと腰を動かしながら、弾む呼吸混じりに途切れとぎれに尋ねた。 「…また、…する、の?」 完全復活したそれを音を立てて出し挿れしながら、奴は上気した顔をわたしに寄せて囁いた。 「するよ、まだまだ。…だって今日、もう帰らなくていいんだろ。時間とか気にしなくていいんだし。…朝まで、じっくり。久しぶりにいろんなことして、二人きりで愉しもうよ…」 その台詞を耳にしながら、自分の奥がまたさっきみたいに頻りにひくひくもの欲しげに痙攣し始めるのを感じてる。…このままじゃ。こいつの言う通り、お互いの身体を激しく擦りつけ合って、ただひたすら欲情を満たし続けるだけでこのまま朝を迎えそう。 何かを深く話し合ったり何でもない些細な会話を交わして一晩終わるんじゃなくて。…いつも通りのパターンだけど。 そう、もともとわたしたちの間には性欲以外の要素はほんとに何にもない。最初の時から互いをよく知らないのにいきなりセックスしたその距離感のまま、今でも同じように続いてる感じ。 そういう意味でバリアとか垣根みたいなものは初めからないけど。だからこそそれ以上二人の間が縮まりようもないから特別変化もないっていうか。とにかく相手に対する欲情、お互いの身体への欲求、それだけの理由で何年もずっと変わらない関係を保ってきた。 川田の身辺のことや経歴について一応の知識はあっても、ひとを深く知るってそういうことじゃない。 奴が普段何を考えてるか、何が好きで何が嫌いなのか。世の中のあらゆることについて心の中ではどう感じてるのか、将来について、これまでの自分について、周囲の人間に対して何をどう思ってるか。…本当に、わたしは何ひとつ知らない。こいつの内面やら人生観やら、等の実態については。 そんな話題についてここで会話が交わされる余裕は正直ないし。 いつでも常に、どんなに昼夜かけて長い時間を共にしてても。何でもないことを徒然に話し合って時間を潰すよりまずセックス。…身体を弄りあって興奮を高めて互いを貪ることだけ。それだけでいつも結局全てが終わってしまう。 だから。 「あ、…っ、川田」 わたしは中を激しく突き上げられながらも硬く膨らんだ小さな突起を弄られて、奴の下で切なく腰を回す。…気持ち、いいけど。そこ、そんな風に責められると。 「奥とそこ、いっしょに、されたら。…あぁ、あたし。もぉ。…溶けちゃうぅ、だめぇ…」 わたしが夢中で腰を振るとかき回された中から熱いものがどっと溢れてきてわたしたちの身体の重なった部分を汚す。…いつもよりなんだか量が多く思える。ぐっしょりと二人が接してるところを濡らしてるそれは、感じてるわたしが滲ませたはしたない液だけじゃなく。明らかに奴がさっき、わたしの中を満たしたままそこに残しておいたものが混ざってる。 二人の欲情の証が混濁して下半身を熱く浸し、大きく派手な濡れた音がしんとした部屋の中の静寂を破るように延々と卑猥に響き渡った。 「よく言うよ。…最初から、もうこんなに。…ぐちゃぐちゃに、蕩けてるじゃん…」 からかうように囁いて、容赦ない手と腰の動きを止めようとしない。わたしは身も世もなく悶え、忙しなく喘いだ。…頭の芯がじんじん痺れて、ぼうっとしてくる。 「さっきは他の男たちのこれ、いくつも次々丸ごとここで飲み込んでたし。あんなに滅茶苦茶やられながらもいつまで経っても満足できないで、もっともっとってずっとねだってて…。そのあと縛られていやらしいエッチな玩具奥まで突っ込まれて、ローターでここや乳首みんなに刺激してもらって。あんなに夢中で喘いで腰振ってたじゃん。もの欲しげな顔つきで、すごいおっきな声あげちゃってさ…」 やっぱり、弄ばれてた恥ずかしいわたしの姿を思い出して興奮してる。付き合ってる、とか特別な相手だってことならわたしが他の男たちにされてるのを見るのは嫌だし不快だって感じてもおかしくないと思うけど。 多分誰でも受け入れOKの助平で淫乱な女だからこそこいつは欲情するし、なしではいられない、必要だってことなんだろうな。まあいいか、それは。いろいろとお互いさまだ。卑猥なからかいを投げかけられながら、満更でもなく中がきゅうと強く締まるのを感じて呻き、甘い声で懇願した。 「あぁっ、そんな。…思い出させないでぇ…、…いじわる…」 「よく言うよ。さっきの思い出した途端に今、ここがぎゅっと俺を締めつけたぞ。ほんとに茜は真性のどMで変態だな。…正直に言いなよ。俺にこうされてるのと、よく知らない沢山の男たちにぐちゃぐちゃにいろんな方向から滅茶苦茶やられるの、どっちが好き?俺だけじゃやっぱもの足りない?…それとも、ほんとはでっかい卑猥なバイブが一番大好物なのかもな。あれだけでびくびく痙攣していってたよな、さっきは?」 わたしは霞んだ目を何とか開いて、茫漠とした視界の中で奴の眼差しを捉えた。訴えるように下から見上げて正直に答える。 「あんなの。…全部、スパイスだもん。やらしいこと一杯されて、恥ずかしいとこ見られて。…それからそのあとあんたと、こうするのが。…一番、いいの」 奴の瞳孔が開くのが見えた気がした。でも、わたしの視界がこみ上げる快感で一瞬歪んだけかも。 「終わって、思い出しながら。…最後に川田とこれするのが。…やっぱり、いちばんすき…。あぁ…」 「…、っ、う」 わたしの独白を耳にした途端、奴はぐ、と背中を強張らせて顔を歪めた。どっ、と熱いのが接合部分から溢れてきて、ああ、いったんだ、って掠れた頭で理解する。 「…ごめ。早かった、かも」 珍しくしょげて謝る川田に、わたしは笑って軽くキスをした。
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