第5章 彼の知らないわたしの実情

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第5章 彼の知らないわたしの実情

わたしの身体のことは隅から隅、誰の手も届かない深い奥のことまで完全に熟知してる。そのことはわかってるから安心して何もかも委ねられる。大学の時の元同級生でわたしの性的パートナーであるその男、川田はベッドの上で絶えだえに浅い息をついているわたしに覆いかぶさって顔を寄せ、そっと優しく口づけした。 それからじっとこちらの顔を覗き込み、表情の変化を見守りつつ首筋から耳の後ろ、髪の生え際を手のひらで撫でさすり、囁く。 「…まだ、ひくひくが収まらない?今日はなんか、いつもよりすごかったからな。そう簡単には鎮まらないか…」 隠したり取り繕ったりしても始まらない。わたしは目を閉じ、震える喉から声を何とか絞り出して素直に肯定する。 「うん。…なんか、つらいの。身体の表面も、すごい深い奥のとこも。…過敏ていうか、覚醒して全然収まらないっていうか。もっともっと、って深いところがずっと叫んでて。おかしくなっちゃいそう…」 奴はわたしの全身をぎゅっと抱きしめて、なんだか愛おしそうに頬に自分の頬を押し付けた。…変な奴だなぁ、とぼんやり考える。わたしたちは恋人でも何でもないのに。 「何時間もずっとぶっ続けで欲情かき立てられっ放しだったからな。抑制が取れたっていうか、箍が外れて性欲が暴走したままなのかも。いきなりブレーキかけるのも難しいしもの足りなくて切ない思いするだろうから。…ゆっくりお前の身体、時間かけて宥めて鎮めていくよ。どこがつらい?」 ぴったり抱きすくめられ、その熱く火照った肌の感触にまた更に欲情を刺激される。わたしは抑えがたく喘いだ。 「ぜんぶ。…何もかも、どこも。表面から奥まで、全部慰めて…」 「うん。…わかった、するよ」 きっぱり言って、奴はそっとわたしの身体を撫で回し始めた。 手のひらで胸を覆い、柔らかく愛おしむように揉む。頭に血が昇った男たちに散々揉みしだかれ、舐め回されて敏感になり過ぎたそこを、メンテナンスでもするように丁寧に揉みほぐす。わたしは目を閉じ、うっとりとその感覚に身を委ねた。 こいつはわたしに絶対に酷いことはしない。からかわれたり嘲られたり、無理やりな卑猥なポーズを取らされたり。それはお互いの興奮を高めるため、ただのプレイの一環に過ぎないってちゃんとわかってる。ここは、人格なんか取っ払ってただの肉体だけしか必要じゃない世界。日常や普段の自意識からは遮断された空間。 その中では男たちは『アイちゃん』を尊重なんかしないし、この身体をただの卑猥な玩具としてしか扱わない。こっちもそれでこそ興奮するし、男たちを個別認識もしないでただ気持ちいいことしてくれるものとしか見てないのはお互いさまだから。そういうお約束だし、むしろそうじゃなきゃ成立しない。 相手の人格なんかまるっきり無視してられるからこそ欲情に没入できるし、心の底から愉しめる。わたしはそうだし、男たちも同じ感覚だと思う。日頃顔見知りだとか、普段から繋がりがある相手だとか。それじゃ自意識が邪魔して吹っ切れないし、愛情のある者同士だと互いへの思いやりやその後の関係の変化への恐れが邪魔して自己中心的になりきれない気がする。それはちゃんと理解してるからどんなに愛のない扱いを受けて言葉で酷く侮辱されてもいちいち傷ついたり思い悩んだりは全然しない。 それは承知の上で、でも終わったあとに男たちの集団に過激に弄ばれた乗りのまま、過剰に性欲だけを強く覚醒させられた剥き出しに敏感な状態でぽんと日常に放り出されるのはいかにも耐えがたい。だから他の男たちを帰したあとに、こいつと二人きりになって改めて時間をかけて身体のメンテナンスをしてもらうのがいつしか決まった習慣になった。 柔らかく何度も口づけを繰り返しながら胸を丁寧にほぐしたあと、奴はそっとわたしの両脚を開かせた。そこに顔がゆっくりと顔が下りていって、下生えもない露わなそこを点検するようにつくづくと眺め、指で押し開いて奥を確かめる。 「…まだ目で見てもはっきりわかるくらいぴくぴく敏感に震えてる。これじゃ切なくてつらそうだな。あんなにめちゃくちゃに激しく何度も突かれていかされたのに。…それだけじゃ欲情ってなかなか収まりきらないものなんだな。大変だな、女の身体って」 じっくりと観察されて、じわ、とそこが更に温かく滲むのを感じる。わたしは僅かに腰を回し、喘ぐように弁解した。 「いかされて終わり、ならいいけど。その度にまだ鎮まらないうちにまた挿れられて、ずっと延々と激しくされ続けてたら。…なんか、感覚がおかしくなってきちゃって。敏感になり過ぎてもとに戻れなくなっちゃった…」 「わかった、優しくゆっくりするから。お前は何も考えずにただ感じて委ねてればいいよ」 そう言い渡して、川田はわたしの開かれたそこに顔を埋めた。過剰に刺激され続けた結果、おそらく充血して赤く腫れてるその部分を舌が柔らかく宥めるように包む。温かくじわっとする感覚に、わたしは安堵して下半身の力を抜いて身を任せた。…あぁ。 「すごい、気持ちいいよ。…川田」 「うん。…可愛いな、茜は」 セックスしながらこんな風に優しく声をかけてくれるのはこいつだけ。わたしのほんとうの名前を呼びながらするのも。それはもちろん、どんな場合でも匿名の相手としかしないこちらの問題ではあるんだけど。 柔らかく優しく舌で隅々まで愛撫されて、じんわりと蕩けながらもどこか絆されて解放されていく。ハイパーセンシティブだったそこが、鎮められてリラックスし始めたのがわかる。だけど、さっきまでよりずっと深いところからもっと強く求める気持ちが湧き上がってきた。 「川田」 わたしは身体を息づかせ、身悶えしながら脚の間の奴の頭にしがみつき、その髪を指でかき乱した。 「すごい、これいい。…もっと、奥もして。川田のあれで」 奴はわたしのそこから頭を上げた。やや上気した顔つきで、熱を帯びた声で尋ねる。 「…やっぱ、表面だけじゃもの足りない?奥も挿れて擦ってあげないと駄目かな。鎮まりそうにない?」 確かめるように指を挿れられて震えて呻く。…ああ、やっぱり。 浅いところだけじゃ。…もっと、もっと深くないと。 「まだ、中が。…ずっと、じんじんしたままで。…変な気持ちが止まらなくて。あたし、おかしいままなの。これじゃ…」 わたしの両脇に手をついて見下ろしてる川田を潤んだ目で見上げて訴え、両腕を差し伸べて求めた。 「自分じゃどうにもならない。だから、挿れて奥まで擦ってちゃんと慰めてほしい。…お願い、川田。あたしで、…して。もっと」 いつもながら、奴は何とも言えない表情を浮かべてわたしの顔を見た。渇いたような、何かをぐっと飲み込んだような。…いろいろなものを押し込めた顔つき。 「じゃあ。…するよ、茜。ふたりで一緒に気持ちよくなろうか」 わたしの脚を改めてより大きく開かせ、両手で押さえ込んでのしかかる。ふと気がついたように口ごもり、ためらいながら申し出た。
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