第6章 彼のほんとを知りたい

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第6章 彼のほんとを知りたい

「…なんか、少し機嫌悪くないか、茜?今日のプレイ。どっか不満なとこあった?」 やや心配そうな川田の声に我に返る。そうだ、今日はまた数週間振りの複数プレイの日だった。今は全部が終わって名前も顔も曖昧な男たちが身支度を整えてそれぞれ帰っていったあと。いつもなら二人きりになるなり甘く、ちょっと執拗にわたしを求めてくる性的パートナーがベッドの縁に腰かけて、怪訝な表情でこちらの顔を覗き込んでた。 わたしは力の入らない身体で何とか寝返りをうって、慌てて表情を作って奴の方へと顔を向けた。どれだけぼんやりしてたんだろ。連中が帰ってから、まだそれほどの時間が経ったとも思えないが。 「別に。全然そんなことないよ?ちょっと今は、ぼうっとしてただけ。最中に機嫌が悪いとこみせたりとか。反応がおかしかったりとかは特になかったでしょ?」 「それはそうだけど。いつもならあいつらが帰っていなくなるのを待ってたみたいにすぐにすり寄って甘えてくるからさ」 ちょっとあらぬ方を見やってうわの空でいたわたしが不満だったらしい。川田は自分の方から身を寄せてきて、ベッドを軋ませながらわたしに覆い被さって抱きしめつつ文句とも気遣いともつかない口調で続けた。 「別に、してる時の反応とかはいつも通り激しくて嬉しそうで、変なとこはなかったと思うけど。なんかもの思わしげに考え込んでる顔つきだったから、今。…思えば今日はどっちかっていうと縛られて、バイブやローターで責められたり焦らされたりする時間がちょっと長くてしつこかったかもしれないな、と思ってさ」 奴は喋りながら、ついさっきまでの情景を脳裏に思い浮かべたらしく軽く声をうわずらせて熱を帯びた手つきでわたしの耳許や首筋の髪をかきあげた。 「卑猥な格好でびくびくいきまくって強烈に感じてるみたいにみえてたし。すごく気持ちよさそうだと見てるこっちは受け取ってたけど、ほんとは内心もの足りなかったのかな、と。…あんな風に延々と焦らされて、みんなに恥ずかしいとこ見られて感じるよりも。本物のあれがんがん突っ込まれて、あそこと口で次々激しくやられまくる方がよかった?でも、実際碌な焦らしもなくただひたすら挿入されるばっかの乱暴な肉弾戦だけじゃそれはそれで…。愉しませ方が足りないかな、とも思うし」 言葉は心配してる風だけど。明らかにいろんなわたしの最中の姿思い出してやや興奮し始めた気配だ。耳の後ろや首筋の敏感なところを弄られて、わたしもつられて再びじわっと変な心持ちになり始めた。 川田はそこに気づいてるのか気づかないふりか、こっちには判断がつきかねる無意識らしい手つきで嬲りながら思案げに続ける。 「そこは思えば難しいとこだよな、バランスが。拘束したりいやらしい格好させたり、卑猥な言葉で責めたり玩具や手や口で焦らしたりするのがなかったらただ集団でやりまくるだけの普通のセックスになっちゃうし。だからといって最初から最後まで全然挿れてやらなくてただ延々と焦らし続けるだけじゃ、お前の身体も切なくて満足できずに終わっちゃうだろうしな。…今日はその辺の不満が残ったのかな?とか。少し思い当たる節がなくもなかったからさ」 確かに。今日はたまたまそういう嗜好の面子が揃ったのか、焦らしや言葉責めがいつもよりだいぶすごいって気がしなくもなかった。けど…。 自分のあられもない恥ずかしい姿を思い起こさせられてじわり、とそこが濡れ始めるのを感じながら、自然と弾み出した腰を何とか抑えつつ努めて冷静に答えた。 「…そういうわけじゃないよ、全然。さっきまでのプレイに不満があったとかは別に…。ただちょっと終わって気が緩んだからふっと考えごとしちゃってた、ってそれだけ。今日のこれとは何の関係もないことだし」 それは何について?と追及されたらやだな、って思って軽く身構えたけど。そんな心配は全く余計なことだった。川田の関心はわたしの個人的な悩みや気がかりに関するあれこれには特に及ばないらしく、その代わりに奴が一番気になる箇所を確かめるべく身を起こしてわたしの両脚を目の前に大きく拡げさせてしげしげとその間を観察してみせた。 「…そうだな、ここはいつも通りの反応だし。まだ欲情が収まりきらないって様子でこんなにもの欲しそうにひくひく震えてるよ。…俺に見られてまた感じちゃったのかな。ほらここ。…じわっと濡れて、目で見てわかるくらい。溢れて流れてきた…」 「あぁ、…やぁん…」 そうやってまたいつも通りのいちゃいちゃが始まる。奴の指や口でわたしのじんじん痺れるところが満たされていくのを感じながら。ぼうっと火照り出す脳で、日頃の小さな悩みや引っかかりがとりあえずはもうどうでもいい、ってところに押しやられていくのがわかってこれはこれでほっとする。 いやらしいことをしたりされたり、それでとにかく身体も脳内もいっぱいになってしまえば日常の憂鬱なんてどうでもよくなってしまう。それがこの手の、身体だけに完全に特化した割り切ったセックスのいいところかも。まあ、終わってしまえば何も解決してない現状に引き戻されたのがわかって落胆する、のもお決まりのパターンなんだけど。 でも、それでもいい。わたしは奴を可能な限り奥まで迎え入れようと夢中で腰を遣いながら喘ぎ、声を上げて目の前の身体にしがみつきながら微かに思う。一時とはいえこんなに雑事を忘れさせてくれることって。正直他には特にあるとは思えないもん…。
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