お気に召すまま、齧りついて -弐-

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お気に召すまま、齧りついて -弐-

「お? なんだ、これ。意外と旨いじゃねぇか。いける、いけるっ」 「あら、ほんと。あわびの言う通りだわっ。どろどろの見た目がちょっとアレだけど、お味は最高よ。通頼ちゃん、これは何の乳かしら? 牛?」 「はい、牛の乳です。我が邸の牛は、但馬国(たじまのくに)の荘園から届く優良な牛でして。お出ししたものは、(らく)とも、『にゅうのかゆ』とも呼ばれている食べ物なのですが、お気に召していただけたようで幸いです」 「ふーん。『にゅうのかゆ』ねぇ。牛の乳から作った粥、ってことかしら。ねぇ、通頼ちゃん? これの作り方をアタシに教えてくれない? 光成ちゃんにお願いして、大納言家でも作ってもらうわ。光成ちゃんの妹姫も猫を飼ってるから、ちょうどいいと思うの」  ――季節は秋。  身を痛めつけていた残暑はいつの間にか遠のき、涼風がうなじをくすぐる時候に移り変わっていた。 「かしこまりました、朱鷺丸殿。では後ほど、紙に詳しく(したた)め、お渡しいたします」 「嬉しいわぁ。通頼ちゃん、ありがとっ」  偶然出会った人語を話す猫ちゃんたちは、その後、頻繁に我が邸に遊びに来てくれている。僕が願った通り、『友だち』として。  ああぁ、夢のようだ。その上――。 「みちより! うずらまるも! うずらまるも、これ、つくる。だから、うずらまるにも、つくりかたをおしえろ」 「あ、はいっ。承知いたしました。では、うずら丸殿にも、後ほどお渡しいたしましょう」  その夢の如き日々に、輪をかけて幸せ気分が膨らむ変化が起きている。 「うん、たのむ。『にゅうのかゆ』とてもうまい。うずらまる、しあわせ」 「そのようにおっしゃっていただけて、僕も幸せですぅ。木桶に三杯ぶん、たっぷり作りましたので、皆様、全部どうぞーっ」  人語を操る猫が、三匹に増えているのだ。嬉しいことに!  こんな、ご都合主義な幸運が僕に舞い降りて良いのだろうかっ!
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