接吻と言うより栄養補給

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あれって夢だったのかな。確か飛び降りようとした時、空からマッチョなシー●……いやもはやラピュ●じゃあない。 とにかく空中に放り出された僕がなぜ自宅のベッドで目覚めるんだ。 そしてこのマッチョは何者なんだ。 「それにしても……」 (綺麗な顔だなぁ) 肌も綺麗だし、顔つきから年頃は僕より少し年上くらいか。 少し無理な姿勢で寝てるけど、首とか痛くないのかな。 (お、起こした方がいい?) 下手に起こして暴れられたりしたら嫌だし。でもずっとこのままでも……っていうか夕方。 母さんが仕事先から帰ってきてしまうじゃあないか! 枕元を手探ると、ポケットに入れて置いたはずのスマホが。 (壊れてないな) 色々と不思議だけど、考え込んでいる時間はない。この状況のままだと母さんが驚いて卒倒してしまう。 自殺しようって奴が何言ってんの、というツッコミは無しで。 (まだ連絡はない、と) とりあえずこの全裸男をなんとかしなきゃ。 僕は恐る恐る、この安らかな寝息を立てる男に声をかけた。 「あ、あのぅ、もしもし?」 「……」 やっぱり声だけじゃ起きないか。怖いけど仕方がない。 ゆっくりと手を伸ばし、人差し指で裸の肩に触れてみる。 (あ、冷たい) 冷水に打たれていたような冷たさだ。元々の体温じゃあない。外の雨や風で冷やされたものだ。 (もしかして、僕をここまで運んでくれた?) 見ると僕は全く濡れていなかった。シーツや布団が水分を吸った形跡もない。 (全裸でここまで来たのか、とか色々言いたいことあるけどさ) 「え……ぅわァッ!」 突然触れていた手が掴まれた。誰にって? もちろんこの全裸男に、だ。 思わず悲鳴を上げて仰け反ったが、もう反対の手首も掴まれベッドに引き倒される。 「なっ、な、なにをッ……」 「腹が減った」 「あっ……ンぶっ! ぐぅっ!」 低く唸るような言葉の意味を聞き取るより早く、何かを勢い良く口にぶつかってそのまま突っ込まれた。いや違う。 (き、キス、され……) 大写しになった美形は迫力満点だ。 緑の瞳がギラリと光り口内に這わされた舌が歯列をなぞる。 「ぅ、んんーッ、んッ、ふ、ぁ、ぁ、ぅぅっ、ん」 ゾワゾワと何かが背中を這い上がってくる。呼吸すら奪われ意識には霞がかかるし、気が付けば目閉じていて感じるのはぬらりと探られる湿った感覚と水音だけ。 (なに、こ、れ、き、きもち、いい) 「ぅぅんっ」 腰を撫でられ一際強い震えが身体の芯に熱を灯す。 初めてだ、こんな感覚。 (は、初めて、のキス、なのにぃぃ) 泣き出したくなるような、変な感情が湧き上がる。抵抗できない。手足すら動かせないのだ。 「……これくらいにしてやる、今はな」 いつの間にか唇も身体も解放されていて、取り残されたような気分で力無くベッドに横たわったいた。 そんな僕を見下ろしながら、全裸男はニヤリと笑う。 ちろりと紅い舌を出し、口の端を拭うような仕草をして言った。
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