非日常も積み重なれば

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非日常も積み重なれば

カーテンの隙間から薄明かりが刺す。 小鳥の声がして、嫌でも今が朝だと悟った。 しかし僕はこれらで目を覚ましたんじゃあない。もちろん目覚まし時計でもない。 毎朝けたたましくなるはずのそれは今朝は大人しく、ごく小さな音で時を刻むのみだ。 (ううっ、重い……なんか圧迫感が。か、金縛りか) 「慎太郎、起きろ」 「……ん、ううぅ、ぅぅ? え、ゆ、幽霊?」 こりゃもう心霊現象だと疑いもしなかった僕の耳に、低い男の声が入ってきた。 「……おい、腹が減ったぜ。起きろよ」 「んー……ぅわぁぁッ!」 すぐ目の前に男の顔が。やたら濃い眉毛に胸焼けしそうなイケメン。 (ええっと、何!? 誰……あ、あー。思い出した) 「龍士、なにしてんの、お、重い……どいて」 っていうかよく見たら、彼のでかい図体が完全に僕の身体に乗ってるじゃあないか。馬乗りだ。 通りで重いわけだよ! 圧迫死してもおかしくないくらいだ。 「俺は腹が減った」 「ええぇぇ?」 空腹で起こしに来るって犬じゃああるまいし。 っていうか、それなら下のリビングに母さんがいるだろう。 「違う。そっちじゃねぇ」 「うん? どういう……んぅっ!」 言葉の途中で口を塞がれた。なんの躊躇も遠慮もなく、彼の唇が僕のそれに重ねられたのだ。 「ぅんんッ、んッ、ふァ……ん、んん……」 寝起きにこれはキツい。酸素を全て持っていかれるようだ。 絡められた舌は吸われて、耳にはぴちゃぴちゃという聞きなれない水音が聴覚を犯す。 なんだ口内を下で探られる度に、なにか妙な気分に陥ってくる。 熱いような擽ったいような。もどかしいような奇妙な気分だ。 「……ハァ、ハァッ……ぁぁ……」 「今朝はこれくらいだな」 ようやく解放された時には、僕の息は上がり切っているし手足に力も入らなくなっていた。 「お前の精気は美味いな。また頼むぜ」 「……ぜっ、たいに、やだ」 完全拒否の言葉なんて聞いてもいない風情で、彼は僕の額に小さなリップ音を立ててキスをする。 「ほらもうすぐ起きる時間だ。早く着替えて来いよ」 バタン、と部屋のドアが閉まり真っ赤な顔をした僕が1人取り残された。 (なんだか額にキスされる方がすごく恥ずかしい)
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