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土台無理のある設定
「……で。どうしてその『龍神様』がこんな所にいるんですか」
「龍士でいいぜ。我ながらいい名前をつけた」
「だからドヤ顔やめて下さい」
母は結局あの言葉通り、彼を自分の息子に認識したらしい。
つまり僕には、えらくゴツイ弟が増えたって事だ。
「助けてくれたのは礼を言いますよ? でも正直……」
(悪いけど余計なお世話というか)
よりにもよって自殺志願者を助けることないじゃあないか。こっちとしては絶好の自殺日和を逃した形になってしまった。
「余計なことをしたか」
「え?」
「空中飛行の練習中だったんだろ、あんまり踏み切り方が不格好だったので手を出しちまった」
「え、ええぇ」
違う違う、そうじゃあない。もしかして龍神ジョーク? ……いやマジだな。目がマジだもの。
「まぁ、そこんとこは良いですけど! なんで僕なんですか。しかもあんなことして……」
「あんなこと?」
このボケ龍神め。キスを知らないなんて言わせないぞ!
(ああ。僕のファーストキス)
そりゃ自殺したらキスもなんもあったもんじゃあないけどさ。それでも何が悲しくて、こんなゴツイ男に初めてを奪われなきゃいけないんだよ!
「むぅ、あれはキスというのか」
「はァ? じゃあ龍神様のお国ではなんなんですかねぇ。まさかキスする習慣ないとか?」
思わず嫌味のひとつも飛び出してしまう。
目の前の美丈夫が途端に憎らしい。
(くそぉ、キスなら清楚で可憐で可愛い女の子したかったなァ)
「栄養補給、だな」
「は?」
……何言ってんだ、このゴリマッチョ。頭まで筋肉なのか。
「お前、思考が声として漏れてんぞ」
「え? ……ハッ! 」
やばいやばい。僕のキャラが崩壊してしまう。いやもう遅いかもしれないけど。
……僕は、人畜無害なオタク寄りの根暗高校生だ。特に熱中してる事はないし何かが秀でている訳でもない。
ま、言うところによると『真面目系クズ』ってやつになるのかなァ。
あー、また死にたくなってきた。
頭を抱える僕に構う事なく龍士はまたとんでもないことを言い出す。
「簡単に言うとだな、お前の精神エネルギーを喰ったんだ。口内などの粘膜から摂取する方が何かと都合がいい」
「な、なんですかそれ……その漫画的頭の悪い設定」
こんなの今どきラノベでも無いよ!
しかもこういうのは普通可愛い女の子が恥じらいながら説明してくれてさァ……あー、もうっ! ノーカンだからな! こんなのキスなんて認めないぃッ!
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