夏の喧嘩

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この部屋で起きるのも後8か月。 初夏の暑い陽が昇るにつれて畳を焼いていく。 だのに何故か、畳に寝ころぶ背中は爽やか。 畳には夏を吸い込む魔法でも掛けられているんだろうか。 来年の今頃は都会の安マンション。 学校近くの小さな商店で、生まれて初めて自分の小遣いで買ったレコード。 もうプレイヤーも無く、インテリア代わりに壁を飾っている。 あのお店、一体何屋さんだったんだろう。 パンも売っていたし、ジュースも売っていた。 今思えば不思議な事に、店の一角にレコードを並べたコーナーが有った。 コンビニなんて無かった時代。 田舎には数え切れぬほどの小さな商店が有った。 10畳ばかりのこの部屋。 親の見立ての古臭い箪笥の上。 子供の頃使った地球儀が鎮座している。 まだ引っ越し準備は早過ぎると思いながら、押し入れを開け閉めしているうちに。 何故か部屋に荷物が増えていく。 片付けなくちゃいけないのに。 捨てなくちゃいけないのに。 「散歩に行ってくる!」 茶の間に声を掛けてサンダルに足を通す。 青い空に小さな入道雲が綿飴みたいだ。 連なる田んぼの緑の海。 子供の頃しか利用した記憶しか無くて、すっかりご無沙汰の駅に行ってみようか。 思い出しただけで、ベルベットの様な座席の感触を思い出す。 今でも残る曲がり角の丸いミラー。 空の青と、森の緑に差し渡し。上下のミラーがそっぽを向いている。 ケンカでもしたんだろうか。 夏が終わるまでに仲直り出来ればいいけど。 cd47c43d-113a-4725-bca5-f4987853a31b
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