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『褒めても何も出ないから。というか、今のご時世ネットっていう便利なものあるんだから、自由研究系は簡単に終わらせられるんだって気づこうよ。感想文だって、コツさえあればすぐ終らせられるんだし。計算ドリルと漢字ドリルはあれだけど。頑張って覚えるように』
『それができれば苦労はしねーよお……!』
運動神経は良くないけれど、頭がよくて大人しく、それでいて面倒見のいい夏騎。そんでもって見た目も大変よろしい。有純にあるのかどうかもわからない母性本能もくすぐられっぱなしだし、無愛想に見えて不言実行で優しいところもあるので彼に感謝しなかった年は殆どないと思っている。
はっきり言おう。有純の初恋は夏騎だった。そして、その恋は今でも繋がっている。男友達、みたいな関係が定着してしまったせいで、とても口にすることなどできなくなってしまったけれど。
――そりゃ、俺は“俺”だし。女の子らしい可愛げとかねーし、口で言うより先に手が出る足が出るなのは否定しねーけど。料理とかも全然できねーけど。
でも、別に男の子になりたくてこんな喋り方や服装をしているわけじゃない。ただ気楽なだけ、自分にあっていると思うだけ。でも一般的には、そういう女の子が男の子にモテることはないらしい、とクラスの女子達はみんな話している。男の子達が“可愛い”と名前を挙げる女子も、大抵髪が長くてお淑やかで家庭的っぽい女子ばっかりだ。
自分は、女の子としても魅力が1ミリもない。美人でもないし、ガサツ。けれど、それを自分でどうにかできるというわけでもない。
それがわかっていて、どうして告白なんて気恥ずかしいことができるだろうか。最初から見込みがない恋なんて、するだけ無駄でしかないというのに。
幼稚園から、小学校まで。一緒にいて笑いあえば笑いあうほど、募るのは“好きだなあ”という気持ちばかりなのである。
『九九は、歌にして覚えると楽なんだよ。あと、リズム。いい動画教えてあげるから、ヨウチューブで見てみて。すごく覚えやすいから』
突然押しかけても、嫌な顔一つしない。有純にできないこと、困ったことがあっても必ず助けてくれる夏騎。
今から思うとそんな彼に、自分は甘えすぎていたのかもしれないと思う。――恋人になりたい、なんて気持ちが少しでもあるというのなら。片方が片方にばかり依存する関係なんて、そんなものでは正しく成り立つ筈もなかったというのに。
――なあ、夏騎。俺さ。……俺にも、夏騎を助ける方法、あるのかな。
クラスが離れてしまったのは、四年生になった時。
そして五年生になって、運良くまた同じクラスになることができた頃には――夏騎はまるで、笑わない子供になってしまっていた。三年生までは、不器用でも小さくても、確かに可愛い笑顔を見せてくれる男の子だったというのに。
実は、毎年の恒例は――その四年生の夏だけ、発生していない。
何故なら彼は、四年生の半分を不登校で過ごしたからだ。
いくら教師達が奔走したところで、人の口に戸を立てることはできない。子供達の間で流れた噂は一つだった。いわく夏騎のクラス――四年三組では、いじめが起きている、と。夏騎が不登校になったのも恐らくそれが原因だろう、と。そもそも、不登校になったのは夏騎だけではなかったらしいから、余程酷い状況であったのは想像がつくことだろう。
そして、やがて決定的な事件が起こることになる。
有純達が四年生の時の、春――四年三組の、生徒の一人が自殺したのだ。
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