<第二話・七匹の子山羊>

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「有純ちゃんに、相談しようと思って……渡されたこれ、ずっと持ってたの。……いつもみんなを助けてくれる有純ちゃんなら、三組の真実がわかるかもしれないなって。……正直私には、クラス替えして全部解決したとは思えないし……夏騎君や亜季みたいに、おかしくなっちゃったままの子達をこのままにしておけないから」  本当にこれは、自分が見ていいものなのだろうか。少し迷ったが、夢がそう言うならば応えたい気持ちはある。躊躇いがちに、有純はファイルを手にとった。  中には大きな封筒が一つ。封筒を開いて中を見れば、入っているのは二枚の紙だった。一枚目には、こう書かれている。 『だれもぼくを      みつけてくれない  だれかぼくを      みつけてください』  そして、二枚目は。 「……これ、絵?いや、地図、か?」  意外なことに、文字らしき文字は一枚目のその二文のみ。二枚目は色鉛筆で描かれた地図のようなものだった。小学生が描いたにしては綺麗でわかりやすい内容である。地図の中に“理科室”“人体模型”などの文字を見つけて目を見開いた。すぐにわからなかったがこれは、どうやらこの学校の地図らしい。 「本を読むのが大好きで、いつもテストで百点を取るような子だったんだって。だから難しい漢字もたくさん知ってたみたい」 「それなのに、一枚目の方は全部平仮名なんだな……?なんでだ?」 「さあ、そこまでは……」  ざっと地図を見ていった有純は気づいた。どうやらこの地図は、いわゆる“宝の地図”の様相を呈しているらしい。スタート地点として、指定されているのは理科室。そして人体模型。そこから矢印が延びている。その手順を踏むと、最終的に“宝物”に到達するシステムになっているらしい。  ただ、その宝物、のある場所の絵はいまいち何処を示しているのかよくわからない。真っ暗に塗りたくられた空間に、ゲームで見かけるような“宝箱”がキラキラと輝いている絵が描かれている。 「小倉君のその“宝物”がなんなのかわからないけど。私、小倉君はそれを、友達の誰かに見つけて欲しかったんじゃないかってそう思うの」  夢は少し目を潤ませながら言った。 「いじめが、本当に終わったのかもわからない。そもそも、いじめが事実で人が一人死んだのに、どうして先生達が何も言わないのか不思議でたまんないの。このまま何もかもうやむやになっていいとは思えない。それに、夏騎君のことも。毎日本当に、学校に来るだけでも辛そうで。私は夏騎君とそんなに仲良しっていうか、そもそも話したことも全然ないけど。でも、なんとかしたいって気持ちはあるから」 「夢……。その気持ちは素敵だけど、でも」  俺になんとかできるとも思えないよ、という言葉を有純はギリギリで飲み込んだ。かつての自分と夏騎の関係ならば、彼を救い出すのは自分の役目だときっと息巻いたことだろう。でも今は、露骨に避けられてしまっている状態だ。夏騎も、自分の助けを本当に必要としているかもわからない。そしてもし行動するのがおせっかいであったら、かえって彼を傷つけてしまったらどうしよう――そんな気持ちが有純にあるのも事実だ。  馬鹿みたいな話。カノジョになれる見込みなどないくせに――自分の中の“女の子”は、夏騎に嫌われるのを心底怖がっているのである。  でも。自分のことでもないのに、人のために涙を零すことのできる優しい夢が。こんなガサツな自分を心底信頼して、頼ってくれているのもわかるのだ。その気持ちを裏切りたくない、応えたいと思うのも事実で。 「……でも、俺になんとかできる保証は、ないよ。それでも、いいの?」  ぐるぐると考えて、どうにか絞り出した言葉に。それでも夢は、うん、と頷いて言った。 「いいの。……きっと有純ちゃんが頑張ってくれるだけで、意味のあることもきっとあるから」
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