<第一話・少年少女の溝>

1/4
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ

<第一話・少年少女の溝>

 目に見える事実が真実とは限らない――と、どこかのサスペンスな漫画の主人公が、そんなことを言っていた気がする。  同時に、別のところの名探偵はこんなことも言っていた。真実は、いつだって一つしかないのだ――と。  それを思うたび、中野有純(なかのあすみ)は思ったものだ。じゃあ、真実ってそもそも一体なんなんだろうか、と。 『夏騎(なつき)ー!計算ドリルまじ助けて、死亡フラグ立ってる!!』  あれは二年生の夏だっただろうか。有純はその年も、幼馴染の五十嵐夏希(いがらしなつき)に泣きついていた。家がすぐ近くというテンプレ、幼稚園から小学校まで一緒に通った友人同士。いわゆる恋愛小説でもなんでも、最終的にくっつくフラグが立っているならばこうだろう、という二人の関係。  問題があるとすれば一つだ。自分達は真逆どころではなく真逆だった。有純は男勝りという言葉では測れないほどボーイッシュで勝気(というか、胸もペッタンコなので初見で男の子と勘違いされなかったことがほぼない)、大して夏騎はおとなしくてクール、上品、中性的な美少年と来ている。一緒に遊んでいると、性別が逆だと誤解されることも珍しくなかった。残念ながら、可愛い雰囲気だのそれっぽい空気だの、というものを経験したことは一度もない。  そして、自分で言っていても悲しくなるが、有純は非常に頭が悪かった。この時も掛け算九九を覚えるのに四苦八苦して、夏休みの計算ドリルが終わらず夏騎の家に突撃した記憶がある。また、八月も半ばというのに読書感想文も自由研究も終わっていなかった。遊び歩いていたせいもあるが、そもそも“何故夏休みの宿題なんてものをやらないといけないのかわからん”という理由で、母の忠告もなんのその放置し続けてしまうというのが正しい。  一年生の夏と同じような状況を作り出した有純に、夏騎は心底呆れていたのをよく覚えている。 『有純、計算ドリルだけ?……他は終わってるんだろうね?』 『終わってると思うか?俺だぞ?中野有純様だぞ?』 『うん終わってないね、知ってた』  夏騎の方は要領もよく、なんと夏休みは始まって一週間程度で全部終わらせたというのだから凄い話である。夏騎はすっげーな!と心底褒め称えると、彼は少しだけ照れて、でも同じだけ呆れた顔で言うのだった。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!