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「ねぇ、この前の電話、女の人だったよね」
「えーああ」
────今、聞くか?随分余裕だな。
「だれ?」
「仕事先!」
「わざわざ休みの日に?」
「向こうは平日が俺の休みなんて知らないだろ?」
「顔、ニヤけてたよ」
──こんな時にしか、聞けないし、言えない。
「バッカ! あの人、結婚してるわ」
「最近は、既婚者もモテるのよ?」
────彼女か、俺か、どっちのつもりか……
「俺の受け入れ先はここ、だけ」
そう言って強めに揺らす。これ以上無駄。どうでもいい。紗季の歪んだ顔が、俺の余裕も吹き飛ばした。だけど、もう少しこうしてたい。
女は“最後の女”になりたがる。
男は“最初”の男になりたがる。
────最初の男になれなかったら、次に狙うは、最後か。どのみち、男の方が過去を気にするし、別れても引きずる。じゃあ、俺は“特別”を狙おう。いや、“特別”か、既に。俺にとっても、紗季にとっても。
──拓真の腕の中で母親から、女に戻る。心も、体も。一生、私の中に入って良いのは拓真だけ。こんな姿を見せられるのも拓真だけ。
そうか、夫婦って、そうか。
“特別”な約束をした、夫婦だから。
──「幸せホルモン」とか「信頼ホルモン」とか「絆ホルモン」とか呼ばれるオキシトシンは肌の触れ合いで分泌されるらしい。
納得。何か、今最高に癒されて、幸せだ。これが、真由の言ってたやつかな。
────女は、年を重ねるほどによくなるらしい。つまり、セックスでオキシトシン大量放出。離れたくないとか、ずっと一緒にいたいとか、思わせてくれるホルモンだ。それなら、もっともっと、出させたい。もっともっと……
若さと勢いはなくなって、だけど、激しさより、ただ抱き合う。それが心地良い。快楽だけでない時間を過ごす。“特別”な時間。2人でしか、過ごせない時間だ。
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